約 1,746,362 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9425.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百四十三話「六冊目『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(その1)」 海獣キングゲスラ 邪心王黒い影法師 登場 『古き本』に奪い取られたルイズの記憶を取り戻すために、本の世界を旅している才人とゼロ。 五冊目の世界はウルトラマンマックスが守った地球を舞台とした本であり、地上人と地底人の 存亡という地球の運命を懸けた戦いに二人は身を投じた。同じ惑星の文明同士という、本来は ウルトラ戦士が立ち入ることの出来ない非常に困難な問題であったが、最後まで未来をあきらめない 人間の行動が地底人デロスの心を動かし、二種族の対立は解決された。そして最後の障害たる バーサークシステムも停止させることに成功し、地球は未来を掴み取ることが出来たのだった。 そして遂に残された本は一冊のみとなった。リーヴルの話が真実であるならば、これを 完結させればルイズは元に戻るはずだ。……しかし、最後の本の旅が始まる前に、才人たちは 密かに集まって相談を行っていた……。 「『古き本』もいよいよ後一冊で最後だ。その攻略を始める前に……ガラQ、リーヴルについて 何か分かったことはないか?」 才人、タバサ、シルフィード、シエスタはリーヴルに内緒で連れてきたガラQから話を 聞いているところだった。三冊目の攻略を始める前に、ガラQにリーヴルの内偵を頼んで いたが、その結果を尋ねているのだ。 ガラQは才人たちに、次のように報告した。 「リーヴル、夜中に誰かと会ってるみたい」 「誰か……?」 才人たちは互いに目を合わせた。彼らは、一連の事件がリーヴル単独で起こされたものでは ないと推理していたが、やはりリーヴルの背後には才人たちの知らない何者かがいるのか。 「そいつの正体は分からないか? どんな姿をしてるかってだけでもいいんだ」 質問する才人だが、ガラQは残念そうに首(はないので身体ごと)を振った。 「分かんない。姿も、ぼんやりした靄みたいでよく分かんなかった」 「靄みたい……そもそもの始まりの話にあった、幽霊みたいですね」 つぶやくシエスタ。図書館の幽霊の話は、あながち間違いではなかったのだ。 『俺はそんな奴の気配は感じなかった。やっぱり、一筋縄じゃいかねぇような奴みたいだな……』 ガラQからの情報にそう判断するゼロだが、同時に難しい声を出す。 『しかもそんだけじゃあ、正体を特定するのはまず無理だな。それにここまで来てそれくらいしか 尻尾を掴ませないからには、相当用心深い奴みたいだ。今の段階で、正体を探り当てるってのは 不可能か……』 「むー……リーヴルに直接聞いてみたらいいんじゃないのね?」 眉間に皺を寄せたシルフィードが提案したが、タバサに却下される。 「下手な手を打ったら、ルイズがどうなるか分かったものじゃない。ルイズは人質のような ものだから」 「そっか……難しいのね……」 お手上げとばかりにシルフィードは肩をすくめた。ここでシエスタが疑問を呈する。 「わたしたち、いえサイトさんはこれまでミス・リーヴルの言う通りに『古き本』の完結を 進めてきましたが……このまま最後の本も完結させていいんでしょうか?」 「それってどういうことだ?」 聞き返す才人。 「ミス・リーヴルと、その正体の知れない誰かの目的は全く分かりませんけど、それに必要な 過程が『古き本』の完結だというのは間違いないことだと思います」 もっともな話だ。ルイズの記憶喪失が人為的なものであるならば、こんな回りくどいことを 何の意味もなくさせるはずがない。 「だったら、全ての『古き本』を完結させたら、ミス・ヴァリエールの記憶が戻る以外の何かが 起こってしまうんじゃないでしょうか。それが何かというのは、見当がつきませんが……」 「洞窟を照らしてトロールを出す……」 ハルケギニアの格言を口にするタバサ。「藪をつついて蛇を出す」と同等の意味だ。 「全ての本を完結させたら、悪いことが起きるかもしれない。そもそも、ルイズが本当に 治るという保証もない。相手の思惑に乗るのは、危険かも……」 「パムー……」 ハネジローが困惑したように目を伏せた。 警戒をするタバサだが、才人はこのように言い返す。 「けど、それ以外に方法が見当たらない。動かないことには、ルイズはいつまで経っても 元に戻らないんだ。だったら危険でも、やる他はないさ……!」 『それからどうするかは、本の完結が済んでからだな。ホントにルイズの記憶が戻るんなら それでよし、もし戻らないようだったら……ブラックホールに飛び込むつもりでリーヴルに アタックしてみようぜ』 ウルトラの星の格言を口にするゼロ。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」と同等の意味だ。 そうして最後の『古き本』への旅が始まる時刻となった。 「今日で本への旅も最後となりましたね、サイトさん。最後の本も、無事に完結してくれる ことを祈ってます」 才人らが自分を疑っていることを知ってか知らずか、リーヴルは相変わらず淡々とした 調子で語った。 「それではサイトさん、本の前に立って下さい」 「ああ……」 もう慣れたもので、才人が最後に残された『古き本』の前に立つと、リーヴルが魔法を掛ける。 「それでは最後の旅も、どうか良きものになりますよう……」 リーヴルがはなむけの言葉を寄せ、才人は本の世界へと入っていく……。 ‐大決戦!超ウルトラ8兄弟‐ 昭和四十一年七月十七日、夕陽が町をオレンジ色に染める中、虫取り網と虫かごを持った 三人の子供たちが駄菓子屋に駆け込んできた。 「くーださーいなー!」 「はははは! 何にするかな?」 「ラムネ!」 「僕も!」 「俺もー!」 「よーしよしよし!」 駄菓子屋の店主は快活に笑いながら少年たちにラムネを渡す。ラムネに舌鼓を打つ少年たちだが、 ふと一人があることに気がついた。 「あッ! おじさん、今何時?」 「んー……六時、ちょい過ぎ」 「大変だー!!」 時刻を知った三人は声をそろえて、慌てて帰路につき始めた。それに面食らう駄菓子屋の店主。 「どうした? そんなに急いで」 振り返った子供たちは、次の通り答えた。 「今日から、『ウルトラマン』が始まるんだ」 「早くはやく!」 何とか七時前に少年の一人の家に帰ってきた三人は、カレーの食卓の席で始まるテレビ番組に 目を奪われる。 『武田武田武田~♪ 武田武田武田~♪ 武田た~け~だ~♪』 提供の紹介後――特撮番組『ウルトラマン』が始まり、少年たちは歓声を上げた。 「始まったー!!」 三人は巨大ヒーロー「ウルトラマン」と怪獣「ベムラー」の対決に夢中となる。 『M78星雲の宇宙人からその命を託されたハヤタ隊員は、ベーターカプセルで宇宙人に変身した! マッハ5のスピードで空を飛び、強力なエネルギーであらゆる敵を粉砕する不死身の男となった。 それゆけ、我らのヒーロー!』 「すっげー……!」 「かっこいー!」 ――特撮番組に夢中になる小さな少年も、月日の流れとともに大人になる。そして、そんな 日々の中で、『それ』は起こったのである……。 ……才人は気がつくと、見知らぬ建物の中にいた。 「あれ……? 本の世界の中に入ったのか?」 キョロキョロと周りを見回す才人。しかし周囲には誰の姿もない。 「随分静かな始まり方だな……。今までは、ウルトラ戦士が怪獣と戦ってるところから入ってたのに」 とりあえず、初めに何をすればいいのかと考えていると……正面の階段の中ほどに、白い洋服の 小さな少女が背を向いて立っている姿が目に飛び込んできた。 「……赤い靴の女の子?」 その少女は、履いている赤い靴が妙に印象的であった。 赤い靴の少女は、背を向けたまま才人に呼びかける。 「ある世界が、侵略者に狙われている」 「え?」 「急いで。その世界には、ウルトラマンはいない。七人の勇者を目覚めさせ、ともに、 侵略者を倒して……!」 少女は才人に頼みながら、階段を上がって去っていく。 「あッ、ちょっと待って! 詳しい話を……!」 追いかけようと階段に足を掛けた才人だったが、すぐに視界がグルグル回転し、止まったかと 思った時には外にいることに気がついた。 「ここは……?」 目の前に見える光景には、赤いレンガの建物がある。才人はそれが何かに気がつく。 「赤レンガ倉庫……。ってことは、ここは横浜か……? でも相変わらず人の姿がないな……」 横浜ほどの都市なら、どこにいようとも人の姿くらいはあるだろうに、と思っていたところに、 倉庫の向こう側から怒濤の水しぶきが起こり、巨大怪獣がのっそりと姿を現した! 「ウアァァァッ!」 「わぁッ! あいつは……!」 即座に端末から情報を引き出す才人。 「ゲスラ……いや、強化版のキングゲスラだッ!」 怪獣キングゲスラは猛然と暴れて赤レンガ倉庫を破壊し出す。それを見てゼロが才人に告げた。 『才人、ここはメビウスが迷い込んだっていうレベル3バースの地球だ!』 「メビウスが迷い込んだって!?」 『メビウスに聞いたことがある。あいつがまだ地球で戦ってた時に、ウルトラ戦士のいない 平行世界に入ってそこを狙う宇宙人どもと戦ったってことをな。この本の世界は、それを 綴った物語だったか……!』 飛んでくる瓦礫から逃れた才人は、キングゲスラの近くに一人だけスーツ姿の青年がいる ことに目を留めた。 「あんなところに人が!」 『確か、メビウスはここで平行世界で最初に変身したそうだ。ってことはもうじきメビウスが 出てくるはずだ……』 と言うゼロだが、待てど暮らせどウルトラマンメビウスが出てくるような気配は微塵もなかった。 そうこうしている内に、キングゲスラが腰を抜かしている青年に接近していく。 「ゼロ! 話が違うぞ! あの人が危ないじゃんか!」 『おかしいな……。メビウス、何をぐずぐずしてんだ……?』 戸惑うゼロだったが、先ほどの赤い靴の少女のことを思い返し、ハッと気がついた。 『違うッ! あの人を助けるのは、才人、俺たちだッ!』 「えッ!?」 『早く変身だッ!』 ゼロに促されて、才人は慌ててウルトラゼロアイを装着! 「デュワッ!」 才人の肉体が光とともにぐんぐん巨大化し、たちまちウルトラマンゼロとなってキングゲスラの 前に立った! 『よぉし、行くぜッ!』 ゼロは早速ゲスラに飛び掛かり、脳天に鋭いチョップをお見舞いした。 「ウアァァァッ!」 「デヤッ!」 ゲスラが衝撃でその場に伏せると、首を掴んでひねり投げる。才人は困惑しながら戦う ゼロに問いかけた。 『ゼロ、どういうことだ? メビウスが出てくるんじゃ……』 『詳しい話は後だ! 先にこいつをやっつけるぜ!』 才人に答えたゼロは起き上がったゲスラの突進をかわし、回し蹴りで迎撃する。 「ハァァッ!」 俊敏な宇宙空手の技でゲスラを追い込んでいくゼロ。しかしゲスラの首筋に手を掛けたところで、 ゲスラに生えている細かいトゲが皮膚を突き破った。 『うわッ! しまった、毒針か……!』 ゲスラには毒針があることを失念していた。しかもキングゲスラの毒は通常のゲスラの ものよりも強力だ。ゼロはたちまち腕が痺れて思うように動けなくなる。 「ウアァァァッ!」 その隙を突いて反撃してきたゲスラにゼロは突き飛ばされて、倒れたところをゲスラが 覆い被さってきた。 「ウアァァァッ!」 『ぐッ……!』 ゼロを押さえつけながら張り手を何度も振り下ろしてくるゲスラ。ゼロはじわりじわりと 苦しめられる。この状態ではストロングコロナへの変身も出来ない。 『何か奴の弱点はねぇか……!?』 『えぇっと、ゲスラの弱点は……!』 才人がそれを告げるより早く、地上から声が聞こえた。 「その怪獣の弱点は、背びれだッ!」 『あの人は……!』 先ほどキングゲスラに襲われていた青年だ。ゼロは彼にうなずいて、弱点を教えてくれた ことへの反応を表す。 「デェアッ!」 力と精神を集中し、ゲスラの腹に足を当てて思い切り蹴り飛ばす。 「ウアァァァッ!」 「セイヤァッ!」 立ち上がると素早く相手の背後に回り込んで、生えている背びれを力の限り引っこ抜いた! 「キャアア――――――!!」 たちまちゲスラは悲鳴を上げて、見るからに動きが鈍った。青年の教えてくれた情報が 正しかったのだ。 『よし、今だッ!』 ゼロはゲスラをむんずと掴んでウルトラ投げを決めると、額からエメリウムスラッシュを発射。 「シェアッ!」 「ウアァァァッ!!」 緑色のレーザーがキングゲスラを貫き、瞬時に爆発させた。ゼロの勝利だ! キングゲスラを倒して変身を解くと、才人は改めてゼロに尋ねかけた。 「ゼロ、つまり俺たちがウルトラマンメビウスの代わりをした……いや、するってこと?」 『そのようだな。この本は、書き進められてた部分が一番少なかった。だから、本来の異邦人たる メビウスの役割に俺たちがすっぽり収まったのかもしれねぇ』 「なるほど……さっきの人は?」 才人が青年の元へ向かうと、彼は傷一つないままでその場にたたずんでいた。青年の無事を 知って才人は安堵し、彼に呼びかけた。 「さっきはありがとうございます。お陰で助かりました」 「君は……?」 不思議そうに見つめてくる青年に、才人は自己紹介する。 「平賀才人……ウルトラマンゼロです!」 と言ったところで風景が揺らぎ、彼らの周囲に大勢の人間が現れた。同時に、壊されたはずの 赤レンガ倉庫も元の状態に変化する。 「これは……?」 『今までは、一時的に違う世界にいたみたいだな。位相のズレた世界とでも言うべきか……』 突っ立っている才人に、近くの子供たちがわらわらと集まってくる。 「ねぇお兄さん、今どっから出てきたの?」 「どっからともなくいきなり出てこなかった!? すげー!」 「手品師か何か!?」 どうやら、周りから見たら自分が唐突に出現したように見えるらしい。子供に囲まれ、 才人はどうしたらいいか困る。 「あッ、いや、それはね……!」 そこに先ほどの青年が、連れている外国人たちを置いて才人の元に駆け寄ってきた。 「ごめんね! ちょっとごめんね!」 そうして半ば強引に才人を、人のいないところまで連れていった。 落ち着いた場所で、ベンチに腰掛けた二人は話を始める。 「何だかすいません。仕事中みたいだったのに……」 青年はツアーのガイドのようであった。その仕事を邪魔する形になったと才人は申し訳なく 思うが、青年は首を振った。 「いいんだ。それよりさっきのことを詳しく聞きたい。……とても不思議な出来事だった。 実際に怪獣がいて、ウルトラマンがいて……」 「ウルトラマンがいて?」 青年の言葉に違和感を持った才人に、ゼロがひそひそと教える。 『この世界にウルトラ戦士はいねぇが、ウルトラマンが架空の存在としては存在してるんだ。 テレビのヒーローって形でな』 『テレビのヒーロー! そういう世界もあるのか!』 驚いた才人は、ここでふと青年に問いかける。 「そういえば、まだ名前を伺ってなかったですね」 「ああごめん。申し遅れたね」 青年は才人に向かって、自分の名前を教えた。 「僕はマドカ・ダイゴと言うんだ。よろしく」 マドカ・ダイゴ……。かつて『ウルトラマン』に夢中になっていた三人の少年の一人であり、 彼こそがこの物語の世界の主人公なのであった。 『……』 そしてダイゴと会話する才人の様子を、はるか遠くから、真っ黒いローブで姿を隠したような 怪しい存在……この物語の悪役たる「黒い影法師」が観察していた……。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/taiyounohikari/pages/200.html
ジャイロは、盗賊団赤き鷹の団員である。男性。 破岩金剛拳の使い手。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9282.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第八十三話「才人の秘密」 羽根怪獣ギコギラー 登場 「あー、今日は疲れたなぁ……」 夜、才人はルイズの部屋で大きなため息を吐きながらぼやいた。本日は朝から二大怪獣と 戦ったと思えば、突然学院にやってきたクリスに振り回されてヘトヘトであった。 一方で、ルイズは不機嫌そうな様子であった。 「……ルイズ、まだ怒ってんのか?」 「お、怒ってなんかいないわ!」 「怒ってるじゃん。まだクリスのこと気にしてるのか?」 才人に指摘されると、ルイズは若干ムキになる。 「そんなわけないでしょ! そ、そういうあんたこそッ! クリスのこと、そんなに気になるの!?」 「気になるっていうか、何だかとんでもないことになりそうだなーって思うだけだよ。何せ姫君だろ? しかも、ちょっと変わってるしさ」 「そうね。王女自ら留学なんて驚きだわ。どんな事情があるのかしら……」 その意見には、ルイズも同感であった。 「まぁとにかく、俺は疲れたしもう寝るわ。おやすみー」 「ええ、おやすみ」 才人とルイズは並んでベッドに入る。疲れ気味の才人は、すぐに眠りに落ちていった……。 ……怪獣クレッセントをやっつけた俺とゼロ。そして俺たちはどうにか学校に間に合うことが出来た。 「はぁ……はぁ……。何とか遅刻しないで済んだみたいだな……」 「もう、毎朝毎朝ギリギリですよ……」 苦言を呈してくるシエスタ。そ、そう言われると耳が痛い……。 でも、何だかんだで間に合っただろ? しかも、怪獣と一戦交えたにも関わらずさ。割と時間に 余裕あるんじゃないかな? ……っていうか、ありすぎな気もする。あれから大分時間が経ったような 感覚があるんだよな。一日分くらい? いや、それは時間経ちすぎか……。 なんて思っていたら、俺たちの後から校門をくぐってくる人たちがいた。それも、片方は先生だ。 「あッ、あの先生はウチの担任じゃないか。名前は……」 何て名前だったっけ……。担任の名前が出てこないって、俺ってそんな記憶力悪かったかな……。 「そうそう、矢的先生! 矢的先生と一緒にいる奴は誰だ?」 矢的先生は外国人の生徒を一人連れていた。ぽっちゃりとした体格……オブラートに包まずに 言うとデブだ。まるでマリコルヌみたいだな。いや、マリコルヌ以上だ。 シエスタが俺の疑問に答えた。 「確か、オリヴァンという男子ですね。何でも、ここ最近登校していなかったそうです」 「登校拒否って奴か。外国からの留学生なのに、世知辛いな」 「多分、それで先生が迎えに行ったんでしょうね」 俺は矢的先生とオリヴァンとかいう男子に注目する。 「……先生、ぼく、やっぱり学校に行くの嫌だよ。みんなぼくをいじめるんだ……」 オリヴァンはかなり弱気で、びくびくとした奴だ。あんな態度じゃあ、いじめっ子に目を つけられるのも無理はないだろうな。 先生はそんなオリヴァンに言い聞かす。 「オリヴァン、勇気を出すんだ。勇気を出してぶつかっていけば、みんなの見る目も変わるよ。 人間、誰だって勇気を持ってる! オリヴァンにだってもちろんあるとも。それを表に出すのは、 何も難しいことじゃないさ」 「でも……」 説得されてもオリヴァンがうじうじしていたら……先生はいきなりその場で逆立ちをした。 「見ろ、オリヴァン。こうしてると、地球を支えてる気分になるんだ。地球をしょって立つ! いやぁ、地球は重いが、出来ないことじゃないぞ。これに比べたら、人にぶつかっていくことなんて 簡単なもんさ」 先生が説いていると、校舎から一人の男子が先生たちのところへ向かっていった。……高校生と いうより、中学生みたいな背丈だなぁ。 「先生、クラスを代表してオリヴァン君を迎えに来ました」 「おぉ塚本、ありがとう。ほら、オリヴァン、お前を心配してくれる人だってちゃんといるんだぞ。 お前は一人じゃない!」 「オリヴァン君、教室に行こう。みんな待ってるよ」 先生と塚本という男子の二人の説得で、オリヴァンもようやくうなずいた。 「……うん」 ……先生って大変なんだなぁ。でも矢的先生は困った奴にも体当たりの指導をして、いい先生だ。 っと。俺たちもそろそろ教室に行かないとな! 俺とシエスタは降車の中へ入っていき、下駄箱で上履きに履き替えた。 「それにしても、今朝ぶつかってきた子は何だったんだろうなぁ。ぶつかってきて、謝りもせず 行っちまうなんて、失礼な奴だったが」 「でも、かわいい子でしたよね」 「それはまぁ、そうだったけど……」 シエスタのひと言に、つい同意する俺。見た目だけなら、俺の好みのど真ん中なんだけどなぁ……。 と思っていたら、シエスタがこっちをじっと見つめているのに気づいた。 「シエスタ、どうした?」 「……前から思ってたんですが……サイトさんは、ああいう小さな女の子が好きなんですか?」 「ぶはッ!」 シエスタが変なことを言うので、思わず噴き出してしまった。 「いきなり何言ってんの!? 別に俺は小さな女の子がタイプとかじゃなくて……」 弁解しようとしたら……いきなり背後から誰かに飛びかかられた! 更にふくよかな胸に 頭が押しつけられる! 「ダーリーンッ!! おはよう!」 「うわッ!? キ、キュルケ!」 今飛びついてきたのはクラスメイトのキュルケだ。俺を「ダーリン」なんて呼んで、毎朝 抱きついてくる……んだったかな。個人的にはそうであってほしいが。 「もう、キュルケさん! 毎朝毎朝……! サイトさんから離れて下さい!」 「あら、いやよ。あたしの中のダーリン分が空っぽなの。だ・か・ら、ダーリン分を充填しなくちゃ!」 抗議するシエスタに、キュルケは訳が分からん理屈を並べた。ダーリン分って何だ。俺はサプリメントかッ。 うお、本気で息が苦しくなってきた……! さすがに命の危機があるので、俺は力尽くで キュルケから離れる。 「あん、ダーリンったら。無理矢理離れたりしちゃ、ダメ」 唇を尖らせるキュルケ。その後ろには、眼鏡をかけた小柄な女の子が控えている。同じく クラスメイトのタバサだ。口数少なくて、何を考えているのかよく分からない。 「もう、キュルケさんったら! サイトさんをぎゅーってしていいのは、幼馴染であるわたしだけなんですッ!」 シエスタはシエスタで、こっちも訳が分からん理屈をのたまっていた。そんなの、されたことないけど……。 「全く、二学期になっても毎朝毎朝、よくも飽きずに同じことやれるわね、あなたたち」 通り掛かった金髪縦ロールの女子が呆れ気味に言った。モンモランシーだ。 その彼氏のギーシュもやってくる。 「みんな、おはよう! 爽やかな朝だね! まるで、このぼくのように!」 「……ギーシュ。お前はどこの世界でも変わらないな」 「どこの世界でも? 何を言ってるんだ、きみ?」 ギーシュにツッコまれた。あれ、内から沸き上がった台詞をつい口に出してしまったが、 俺は本当に何を言っているんだろうか。 「そこのあなたたち! いつまでも廊下でたむろしてないで、早く体育館に移動して下さい。 始業式始まりますよ。もう、二学期になっても相変わらずなんだから」 朝から騒々しい俺たちに、クラス委員長の春奈が呼びかけてきた。いっけね、もうそんな時間か。 俺たちは雑談を打ち切って体育館へと移っていって、始業式に出席したのだった。 「みんな、始業式でも話があったように、今日から二学期が始まるぞ。全員、夏休み中は元気でいたかな?」 始業式が終わると、教室でホームルーム。矢的先生は本当に熱血さが全身から溢れ出ている先生だなぁ。 「それで、二学期最初の授業と行く前に、みんなに一つお知らせがある」 ん、お知らせ? 「実は今日から、このクラスに新しい友達が加わることになった。つまり転校生だ!」 おお、転校生とは。俺の前の席のギーシュが、女の子か!? と興奮して隣のモンモランシーに たしなめられた。 「早速紹介しよう。さぁ、入ってきてくれ!」 矢的先生が廊下に向かって呼びかけると、扉が開かれて転校生という子が教壇に上がってきた…… って、あの子は!? 「し、失礼しますッ!」 あの子は、朝ぶつかってきた女の子じゃないか! う、嘘だろぉ!? 同じクラスになるなんて、 どこのラブコメ漫画だよ! 「ル、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。ルイズって呼んで下さい」 長い名前だな……。まぁ、このクラスの奴らも大概長いのが多いけど。ここは日本のはずだよな? ……まぁ、いいか。 「この度、父の仕事の都合でこの街に引っ越してきました。まだ分からないことだらけなので、 色々教えて下さい」 かなりしおらしいな……。朝とはまるで別人だ。日頃からあれだけ大人しければ……。 ん、日頃から? あいつの日頃なんて知らないだろ、俺。おかしいな、妄想癖に目覚めたのか? 矢的先生がルイズの紹介をする。 「ルイズ君のお父さんは外交官をされていて、今回、お仕事の都合で転校してきたんだ。 みんな、仲良くするんだぞ」 「はいはい、先生! 手前どもにどうぞお任せあれ!」 小気味よく返事をしたのは、通称落語。博士、スーパー、ファッションの四人組でよく行動している クラスメイトだ。……あいつらも塚本同様、高校生というよりは中学生っぽいんだよなぁ。 「さて、ルイズ君の席だが……平賀の隣がちょうど開いてるな。そこに座るといい」 「はい」 げ! こっち来るのかよ……。こういう時って、どんな顔をすればいいんだ? とりあえず、 ギーシュを見習って無駄に爽やかな感じで、朝のことなんて気にしてませんよー的に振る舞おう……。 そう決めた俺は、こっちに近づいてきたルイズに、爽やかな感じで話しかけた。 「よ、よよよ、よう」 駄目だった! 思いっきりどもったよ! 爽やかさ、微塵もなかった! 「ああああああああ!! あんたは!?」 俺のことに気づいたルイズは大声を上げた。それで矢的先生が笑う。 「何だ、平賀はもうルイズ君と友達だったのか。それならちょうどいい。平賀、お前がルイズ君に 色々教えてやってくれ」 ええッ!? 何か先生に変な誤解をされている! 「俺がですか!?」 「こんな奴にですか!?」 ルイズが如何にも不満げに言い放った。俺の台詞を真似するんじゃないよ! 「はっはっはっ! 息もぴったりだな」 先生、勘弁して下さいよ! どこを見ればそう見えるんですか! ルイズはきっと俺をにらんでくる。 「あんた、何でこんなところにいるのよ!」 「何でって、ここの生徒だから当たり前だ!」 言い返してやったら、ルイズはとんでもないことを言い出した。 「……やめなさい。そ、そそそそ、即刻、た、退学しなさいッ!」 「む、無茶苦茶言うなぁ!」 「命令よ! 退学なさいッ!」 「断るッ!」 「二人とも、その辺にしなさい。ルイズ君、席に着いて」 口喧嘩する俺たちを先生がたしなめた。 「でもッ!」 「席に着くんだ。授業が出来ないだろう?」 「矢的先生の言う通りですよ、ルイズさん。学生は勉強が本分です。平賀君と何があったか 知りませんが、お話は授業の後にして下さい」 博士も諭した。あいつは俺とは大違いの優等生だな。 「……はい」 やっと静かになったルイズは、しぶしぶと俺の隣の席に腰掛ける。くっそー、これから こいつが隣なのかよ……。どうしてこうなるんだか……。 そうして二学期最初の授業が始まったのだが……途中で、外に異常が発生した! 「ギャオオオオオオオオ!」 「!? 今の音は……!」 突然、窓の外から飛び込んできた咆哮の音に教室は急激に騒然となった。そして外を見やると、 「ギャオオオオオオオオ!」 空の彼方から、真っ赤な眼をした青黒い怪獣が、腕と一体化している翼を広げて滑空しながら こっちへと迫ってくるところだった! 顎の皮膚がだらりと下に伸び、顎髭のようになっている。 端末で調べると、あれは羽根怪獣ギコギラーという奴のようだ。かなり凶暴な性質の怪獣だ! くそッ、今日は何て日だ。一日に連続して怪獣が現れるなんて! ……同じ一日だよな? 何故か自信がないんだが……。 「きゃああッ! 怪獣だわ!」 「うわああああッ!」 ファッションとスーパーが悲鳴を上げる。それを皮切りに教室内に騒乱が起こった。 他のクラスも同様だろう。 「みんな、落ち着くんだ! 避難訓練の時のことを思い出しながら、慌てず順番に避難するように!」 矢的先生が慌てる皆を鎮め、テキパキと指示を出してクラスを避難させていく。大分手慣れた様子だ。 先生、こういうの慣れてるのか? 『才人……!』 「ああ……!」 けれど俺は隙を見て、こっそりと皆の間から脱け出していった。もちろん、ゼロに変身して ギコギラーを迎撃するためだ! 人気のないところを見つけてそこへ駆け込むが、念のためにキョロキョロ周囲を見回して、 周りが完全に無人であることを確認した。 『才人、確かに誰もいないだろうな?』 「ああ、大丈夫だ。ちゃんと確かめた」 『分かってると思うが、くれぐれも変身するところは見られないようにな。お前がウルトラマンに 変身するって誰かに知られたら、俺は地球にはいられなくなっちまうんだ』 「ああ。……?」 今のゼロの言葉に、俺は首をひねる。 『どうした?』 「いや、もう割と色んな人に知られてるような気が……」 『何言ってんだ、そんなことあるもんかよ。色んな人って誰だよ』 そう言われると……思い浮かんでこないな。どうしてそんなことを思ってしまったんだろうか……。 『おかしなこと言ってねぇで、変身だ! ギコギラーはもうすぐそこまで来てるぜ!』 「ああ、そうだったな! よし、行くぜ!」 ゼロに促されるまま、俺はウルトラゼロアイを装着して変身を行った! 「ジュワッ!」 俺から変身したゼロは、地上に降り立ったギコギラーの前に颯爽と立ちはだかる! 「ギャオオオオオオオオ!」 『ギコギラー、俺が来たからには、地球には指一本手出しさせねぇぜ!』 宇宙空手の構えを取ったゼロは、猛然とギコギラーに飛びかかっていった。 「ギャオオオオオオオオ!」 「シェアッ!」 ギコギラーの打撃をいなし、反対にチョップ、蹴り上げ等の猛襲で弱らせる。そして隙を見て 首投げを仕掛けた! 格闘の技量ではやっぱりゼロに軍配が上がる。 「ギャオオオオオオオオ!」 しかしギコギラーも怪獣の意地で、負けていない。翼を大きく羽ばたかせて、突風を巻き起こした。 『うおッ!』 さすがのゼロも風をいなすことは出来ず、姿勢が崩れる。そこを突いてギコギラーが地を蹴り、 飛びながらの両足蹴りを見舞った! 『ぐあッ!』 「ギャオオオオオオオオ!」 かなりの重量のあるキックに、ゼロは手痛いダメージを受けた。大きな翼を有するギコギラーは 飛行能力に優れる怪獣。そのため、どっしりとした体格に似合わぬ身軽な動きが出来るんだ。 重量とスピード、一見すると相反する要素を兼ね備えていることがギコギラーの強みだと、俺は分析した。 ギコギラーはまたフライングキックを繰り出してくる。今度はかわしたゼロだが、 『うッ!』 長い尾が首に巻きつき、ギコギラーに引きずり回されてしまう! 『ぐわぁぁぁッ!』 「ギャオオオオオオオオ!」 地面との摩擦で苦しめられるゼロ。どうにか尾の拘束から逃れるも、そこに口からの熱線を 叩き込まれて大ダメージを食らった。カラータイマーが赤くなる。 『ぐっはぁッ!』 『ゼロ、頑張れ! 俺も力を貸すぞ!』 ギコギラーの猛攻撃に追い詰められるゼロを応援する俺。更に念を込めて、ゼロに力を与えるぜ。 これが少しはゼロのパワーになってくれればいいが……。 『助かるぜ、才人。気合いが戻ってきたぜ!』 よし! ゼロの身体に力がみなぎってきた! ここから反撃の狼煙を上げるぜ! ギコギラーはまた翼を羽ばたかせて突風を起こそうとするが、ここまででギコギラーの 手持ちの札はあらかた見た。もうお前の攻撃は、ゼロには通用しないぜ! 「セアッ!」 額のランプから緑色のレーザーが照射される。エメリウムスラッシュだ! 素早い光線の一撃がギコギラーの翼を撃ち、羽ばたきを阻止した。 「ギャオオオオオオオオ!」 ひるんだところでゼロは一気に相手の懐に飛び込み、みぞおちに強烈な横拳を突き入れた! 「セェェイッ!」 「ギャオオオオオオオオ!」 殴り飛ばされたギコギラーはかなりのダメージを負ったはずだ。この勢いで倒せるはずだ! だがギコギラーは再度飛翔し、今度は全身を使った突進を繰り出してきた! 危ない、ゼロ! 『なぁに、これぐらい! おおおぉぉッ!』 ゼロのブレスレットが閃光を放ったかと思うと、ゼロの体色が真っ赤に染め上げられた! 『ストロングコロナゼロッ!』 超パワータイプの戦士に二段変身したゼロは、ギコギラーの突進を真っ向から受け止めた! そして回転を加え、大空高くに放り投げる! 『ウルトラハリケーンッ!』 「ギャオオオオオオオオ!」 竜巻の勢いで頭上へ吹き飛んでいったギコギラーに、とどめの必殺技がぶち込まれる! 『ガルネイト、バスタァァァーッ!!』 真っ赤な噴火のような光線が刺さり、ギコギラーは空中で瞬時に爆散した! やった、ゼロの大逆転勝利だ! 『すげぇぜ、ゼロ! やっぱりゼロは強いな!』 『へへッ、これは俺たちの力だぜ。俺たち二人の力がありゃ、そんじょそこらの奴に後れは取らねぇよ』 嬉しいことを言ってくれるゼロ。だけど……二人、に何か違和感があるな。ここにもう一人が 加わっていたような……。いや、人? だったっけな? 変な疑問を抱いていたら、また視界が急激にぼやけてきた! くそッ、一体何だっていうんだ……! 「……んッ、ふあぁぁ……もう朝か……」 ……朝が来て、才人は今日もルイズのベッドから起床した。 「んー……今日もまた地球の、日本の夢を見たような……。でも、どんな内容だったかな……」 はて、と頭を傾げる才人だが、夢のことは忘却の彼方にあり、どんなに首をひねっても 思い出すことはなかった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9442.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百五十三話「悪魔の脅迫」 超古代怪獣ゴルザ 超古代竜メルバ 炎魔人キリエル人 登場 教皇の即位三周年記念式典は、ロマリアから北北東に三百リーグほど離れた、ガリアとの 国境付近の街アクイレイアで行われる。二週間にも及ぶ、大きなお祭りだ。 そのアクイレイアへの出発の時が迫っているのだが、オンディーヌはアンリエッタと共に 乗艦する御召艦への乗り込みを遅らせていた。才人が未だ姿を見せないのだ。 「一体、サイトはどうしたんだろうなぁ……」 大聖堂の本塔にバルコニーのように張り出した桟橋で、マリコルヌが心配そうにつぶやいた。 「まさか、怖じ気づいたんじゃないだろうな?」 「けど、サイトはどんな戦闘にもどんな大怪獣相手にも、果敢に飛び込んでいった奴だぜ。 いくらガリアとはいえ、今更尻尾を巻いて逃げ出すなんて考え難いよ」 「そういえばルイズもまだみたいだな。また二人で痴話喧嘩でもしてるんじゃないか?」 「それだったらそろそろ来る頃だろう」 などとオンディーヌが相談し合っていると、噂をすれば影というように、ルイズが一人の 男を連れながら彼らの前にやってきた。ギーシュたちはルイズの格好に目を丸くする。 「うわぁ! 尼さんの格好じゃないか!」 ルイズは白い神官服に身を包んでいた。どうやらルイズは、巫女として式典に参加するようだ。 しかしすぐにギーシュたちの注意は、ルイズからその背後に連れ立っている男の方へ移った。 いつもなら才人がいる立ち位置に、今まで見たこともない男がいる。 「ルイズ……そちらの方はどなただい?」 ギーシュが代表して質問すると、ルイズではなくその当人が答えた。 「俺はラン。これからは、俺が才人の代わりをすることになった」 今の言葉に、オンディーヌは声にならないほど仰天した。 「は? い、いや、きみ、何を言ってるんだい? サイトの代わり? そのサイトは一体 どこへ行ったんだ?」 ギーシュが改めて尋ねると、今度はルイズが、深呼吸した後に答えた。 「サイトは……里帰りよ」 オンディーヌは再び言葉を失った。 「里帰り!? この状況で!? 訳が分からない! 説明してくれ!」 混乱するギーシュはルイズの肩を掴んでゆすった。ルイズはゆっくりとその手を振り払った。 「……サイトの故郷から、お母さんの手紙が届いたの。帰ってきてくれって」 「それで帰したってのかい?」 ルイズがうなずくと、マリコルヌが頭を押さえてうめいた。 「だからって、こんな時に帰さなくたっていいじゃないか! よりにもよってこんな大変な時に……」 ルイズは厳しい顔つきになる。 「何を言ってるのよ! こんな時だからこそ、帰したんでしょ! 今までどれだけサイトが わたしたちのために戦ってきてくれたと思ってるのよ。あなたたち貴族でしょ! 己にかかる 火の粉は己で払うべきよ。……とにかくこれ以上、わたしたちの戦いにサイトを巻きこむ訳には いかないわ」 「だ、だからって、そんないきなり出てきた人を代わりだなんて……」 なおも言い返そうとするマリコルヌをさえぎって、ギーシュが言った。 「もう一個質問だ。いいかい?」 「いいわ」 「それはその、サイトの意思なのかい? サイトが自分で帰るって言ったのかい?」 ルイズは首を振った。 「わたしの判断よ」 その途端、オンディーヌから次々と非難の言葉が沸き上がった。 「とんでもない! とんでもないよ! いくらサイトがきみの使い魔だからって、自分勝手 すぎるじゃないか!」 「勝手じゃないわ! ちゃんと考えたもの!」 「そうは思えないけどな。サイトはもしかしたら、ぼくたちと一緒に戦いたかったかもしれない じゃないか。というか、彼ならそう思うはずだ」 うなずき合うマリコルヌたちにルイズは何か言おうとしたが、それはこの場に現れた アンリエッタにさえぎられた。 「あなた方は何をしているのですか。わたくしに恥をかかせるつもりなのですか?」 周囲からは、ロマリアの神官や役人の奇異の目が集まっている。少年たちは我に返って 顔を赤らめた。 「騎士の一人が欠けたのは問題ですが、それで慌てふためく騎士隊も問題です。わたくしは、 勇敢な騎士を隊士に選んだつもりですが……」 女王自ら注意されては、オンディーヌは畏まる以外になかった。アンリエッタはルイズと ランを促して、フネへの桟橋を渡らせる。 そして船室に二人を招き入れたところで、ランに向かって尋ねかけた。 「あなたは、ウルトラマンゼロなのですね? 昨日までは、サイト殿と共にあったはずの……」 ランの左腕には、それまでは才人が嵌めていたウルティメイトブレスレットが袖からかすかに 覗いていた。そう、このランという男こそが、ゼロが人間に擬態した姿だ。名前と姿のモデルは、 アナザースペースで命を助けた青年である。 「ああ……。あのままくっついてたら、才人を帰してやれねぇからな」 「……詳しいいきさつを聞きたいところですが、今は時間がありません。後ほど、ゆっくりと 伺います」 アンリエッタはそれを最後に退室し、アニエスとともにまずはオンディーヌの居室に向かった。 この件で動揺することのないよう訓示するのだ。 彼女がいなくなってから、ルイズはポツリとゼロに問いかけた。 「ゼロ……わたしの判断は、間違ってなんかないわよね」 ゼロはおもむろにうなずく。 「ああ。今度こそ、才人は家族のところに帰るべきだ。突然息子が消えちまった親を、安心 させなくちゃならねぇ」 しかし、次にこんなことを言う。 「だが、その後であいつがそれでもハルケギニアに戻ることを選んだのなら、俺は連れて 戻ってくる。たとえそれが俺の故郷の奴らに非難されることになってもだ」 今の発言に、ルイズはすごい勢いで振り返った。 「何を言ってるの!? サイトはもうこんな危険なところに戻るべきじゃないわ! ずっと 故郷に留まるべきよ!」 ゼロは、それには賛同しなかった。 「ルイズ……何度も言うが、才人は立派な戦士になった。戦士にとって、守りたい人を守れない ことこそが最大の不幸なんだ」 「でも……!」 「それに……お前のことも心配なんだよ」 ゼロの指摘に、ルイズはかすかに目を見開く。 「わたしが……?」 「お前、すげぇ無理してるのが丸分かりだぜ。才人よりも、お前の方が今にも押し潰されて しまいそうだ。……お前のことだって、俺は死なせたくなんかねぇんだ」 ゼロの言い分は全く正しいことであったが、それでもルイズは虚勢を保った。 「そんなことはないわ……。わたしは、サイトがもう隣にいないことも受け入れて、あいつの 分までハルケギニアの平和を守る覚悟でいるわよ」 その言葉も間違いではない。ルイズがあれだけ反対していたヴィットーリオの提案に乗り、 巫女の衣装を纏ったのも、才人に代わってガリアの陰謀と戦う決意を固めたからだ。 才人ともう二度と会えない……その事実が、ルイズにとって最も苦しいところであったが、 ルイズはそれも受け入れる所存であった。いっそのことティファニアにこの記憶と気持ちを 消してもらいたくもあったが、その選択はしない。今日までの道のりは、そして才人から もらったたくさんのものは、かけがえのない宝物……才人だけではなく、仲間たちとの絆でも ある。それを「なかったこと」にはしたくない。 だから、自分がこの世界を守り抜くんだ……。ルイズは己に強く言い聞かせていた。 その頃――と言っていいのかは分からない。何せ六千年の隔たりがあるのだから――才人は、 思い切り混乱していた。湖面に映る姿が、いきなりウルトラマンティガのものになったらそれも 当然だ。 『ど、どうなってんだ? 何でゼロじゃなくてティガに……。いや、ここは六千年前だから そもそもゼロはいないのか。でも、だからって……』 一度の人生で、二人目のウルトラマンと融合する。そんなことがあり得るのだろうか、 と悶々としていたら、肩にゴルザとメルバの光線を食らってしまった。 「グガアアアア!」 「キィィィィッ!」 『あ痛でぇッ!? くッ、考えるのは後にするか!』 ブリミルとサーシャのことも助けなければならない。才人は、ともかく怪獣と戦える姿に なったのはこれ以上ない幸運だ、と考えを改めて、超古代の二大怪獣の間に一気呵成に 切り込んでいく。 「タァーッ!」 メルバをキックで押しのけ、ゴルザの首筋にチョップをお見舞いした後に押さえ込もうとする。 二対一という不利な状況下だが、ウルトラ戦士としての戦いはこれまで散々ゼロの中で経験して いるので、ある程度はこなすことが出来る。 「キィィィィッ!」 「グガアアアア!」 「ウワァッ!」 だが翼を広げて滑空したメルバのカマ状の腕に背後から斬りかかられた上に、ゴルザに 投げ飛ばされて転倒。光線の追撃を、転がってギリギリで回避する。 『くッ、身体が思うように動かせねぇ……!』 体勢を立て直した才人がうめいた。いくら経験はあっても、ティガは当然ながらゼロとは別人。 その身体能力にも違いがあるので、いきなり変身した才人が十二分に戦うことが出来ないのは むしろ自然なことだろう。 『もう少し腕に力を込められれば、力負けはしないのに……』 苦悶していると……才人の脳裏に、あるイメージが湧き上がった。 『! こ、このイメージは……! よしッ!』 才人は本能的に、そのイメージの通りに身体を動かした。額のクリスタルの前で腕を交差し、 勢いよく振り抜く。 「ンンンンン……ハァッ!」 それと同時に赤と紫の体色が、赤一色に変化した! 同時に肉体に力がみなぎる。 『そうか! ティガにも二段変身能力があるのか!』 理解する才人。ウルトラ戦士の中には、肉体を変化させて能力を特化させる力を持つ者がいる。 ゼロや、その力を授けたダイナ、コスモスのように、ティガもそのようなタイプチェンジ能力を 持つウルトラマンだったのだ! 『よしッ、これなら!』 赤い姿、パワータイプのティガとなった才人は改めて怪獣たちに突撃していく。ゴルザと メルバは光線を放って迎撃してくるが、才人は高まったパワーを活かして手の平で光線を 押し返していった。 「タァッ!」 「キィィィィッ!」 「グガアアアア!」 距離を詰めるとメルバの顔面に正拳を入れて吹っ飛ばし、ゴルザは首を掴んで一本背負い! 逆さまに地面に激突したゴルザを狙い、才人は伸ばした両腕を腰から頭上へと持ち上げて いきながら真っ赤なエネルギーを凝縮して光球を作り上げた。 「タァァーッ!」 そして投球のフォームで、光球からエネルギーを照射! パワータイプの必殺技、デラシウム光流だ! 「グガアアアア!!」 その一撃でゴルザを粉砕! しかし直後に背後からメルバが滑空しながら迫ってくる。 「キィィィィッ!」 察知した才人は回し蹴りで迎え撃つも、メルバは上昇して攻撃をかわした。 『この姿だと、余計に身体が重い……!』 才人はパワータイプの欠点に気づいた。パワータイプはその名の通りに破壊力に優れるが、 代わりに敏捷性が低下するのだ。そのためメルバのように身軽で飛行能力を持つ相手には 対応できない。 しかし才人の脳裏に再びイメージが浮かび上がる! 『身体が赤く染まるんだったら、その逆も……! よぉしッ!』 先ほどと同様の動作で、再び体色を変化させる。今度は紫一色の姿だ。 『身体が軽くなった! これならいけるぜッ!』 紫色の姿は、パワータイプと正反対の特色のスカイタイプだ! 才人は高々と跳躍して、 上空のメルバへと急接近する! 「ヂャッ!」 天空を舞うスカイキックがメルバに炸裂し、地上へと叩き落とす! 「キィィィィッ!」 『こいつでフィニッシュを決めるぜ!』 ヨロヨロと起き上がろうとしているメルバへと、左右に開いた腕を頭上で重ね合わせることで 充填したエネルギーを左の脇腹に構え、手裏剣を放つように発射する! 「タッ!」 スカイタイプの必殺技、ランバルト光弾! これが突き刺さったメルバは、瞬時にバラバラに 弾け飛んで消滅した。 『やったぜ……! けど、まさかこんなことになるなんてな……』 怪獣を撃破してブリミルたちを救えたのはよかったが、よもや六千年もの過去の世界に 来て、その世界に怪獣が出て、しかも自分がウルトラマンティガと一体化するとは。冷静に なって振り返れば、訳の分からないことだらけだ。 しかしそろそろ変身の時間切れも近い。才人はひとまず元の姿に戻って、ブリミルたちと 詳しい話をすることに決めたのだった。 元の姿に戻った才人を、ブリミルは興奮し切った調子で迎えた。「きみが光の巨人だったの かい!? 一体どんな力を使って変身したんだ!? きみは何者なんだね! 是非教えて くれたまえ!」とものすごい勢いで詰め寄って才人を参らせた彼は、サーシャにどつかれて 黙らされた。一行はとりあえずブリミルたちの住居に移動し、腰を落ち着かせて話をする ことになった。 「……つまり、きみは自分がどうしてここにいるのか分からない、ということでいいのかい?」 「そういうことです。ウルトラマン……光の巨人も、俺と同一の存在って訳でもありません。 彼らには、別の生き物と同化する力があります。それで俺を助けてくれたんです」 ブリミルに聞き返された才人が答えながら、手に握った、翼型の意匠を持ったスティック状の 物体に目を落とした。スパークレンス……ウルトラゼロアイのような、ティガに変身するための アイテムだ。気がつけば、これが懐にあった。 ブリミルたちの住居は、草原の上に建てられた移動式のテントを密集して作った小さな 村だった。現在のハルケギニアでは見られない風景であり、ルイズたちの始祖と呼ばれる 人物が今と全く違う様式の暮らしをしていることに才人は内心驚いていた。 「そうか……。しかし、きみの主人に会えないというのは残念だ。ぼく以外の『変わった 系統』の持ち主に会えるものと期待していたんだがね」 肩をすくめるブリミルは、“虚無”のことを『変わった系統』と遠回しに表現する。しかし、 それも当たり前かもしれない。ブリミルが始祖ならば、“虚無”というのはこれから彼がつける 名前だ。サーシャがハルケギニアを知らないのも、きっとこれから名づけられるからだ。 「ところでブリミルさんは、怪獣をヴァリヤーグなんて呼んでましたけど……」 「きみのところでは怪獣と呼んでるのかい? 怪しい獣……言い得て妙だね。ヴァリヤーグとは ぼくの命名だ。元々は、ぼくたちの氏族を追い立てた者たちの名前なんだけどね。あの巨大生物 どもは、同じようにぼくたちを、いやこの大陸中の生きとし生けるものを苦しめるんだ」 才人はブリミルとサーシャから、彼らを取り巻く状況について様々な話を伺った。 ブリミルはマギ族という名前の部族の一員であり、ある日ヴァリヤーグという別の部族の 人間たちに元々の住処を追われる羽目になってしまった。マギ族の中で他に例を見ない特殊な 魔法、今で言う“虚無”魔法を扱うブリミルはどうにかしようと自身の魔法を研究する中で サーシャを使い魔として呼び出し、彼女たちエルフの住んでいる土地のある大陸へとゲートを 開いて移動することに成功した。しかし安心したのもつかの間、移動先の大陸に突如異常な 巨大生物の群れ……怪獣が出現し、マギ族、エルフ関係なく襲い始めたという。 「怪獣は元々、この大陸にはいなかったんですか?」 「そうよ。あんな天を突くような生き物の話なんて、一度たりとも聞いたことがないもの。 あいつら、一体どこから湧いてきたのかしら……」 と証言するサーシャ。ハルケギニアは元から怪獣が存在する星ではなかったのは分かったが、 六千年前の時点で出没していたのは意外だ。怪獣もウルトラマンも、ブリミルの時代に既に いたのなら、どうしてそれが現在のハルケギニアに伝わっていないのだろうか? また、マギ族、つまり人間とエルフが敵対関係にないのも意外であった。むしろ怪獣を 相手に共闘している関係と言ってもいい。それが何故、現代ではいがみ争っているのだ? 「しかしヴァリヤーグは非常に大きく強い上に、わんさかいる。ぼくたちに勝ちの目は全く ないと一時はあきらめもしたが、そこに現れたのが光の巨人、きみが言うウルトラマンだ! 彼らはどうしてなのかは分からないが、ぼくたちを助けヴァリヤーグを退治してくれる。 ぼくとサーシャはこれから、ウルトラマンに助力しながらヴァリヤーグ出現の真相を突き止め、 これを根絶してこの大陸を救う旅に出るつもりなんだよ」 「肝心のこいつがいまいち頼りないのが全く困りものなんだけどね」 張り切るブリミルにサーシャは毒を吐いた。 ブリミルたちの状況を大体理解した才人だが、するとやはり別の疑問が浮かんでくる。 おおまかに聞いただけだが、教えられたハルケギニアの歴史とまるで内容が異なる。今の 自分は、夢でも見ているのだろうか? しかしこの現実感はとても夢とは思えない。となると、 六千年の時の間に伝承が歪曲し、怪獣やウルトラマンの存在が忘れられてしまったのか? 才人がそんな風に考えを巡らせていると、この場にテントの扉を破って若い男が飛び込んできた。 「族長! 大変です!」 「ヴァリヤーグか!?」 ガタン、とブリミルは立ち上がったが、男は首を振った。 「いえ、ですがそれ以上にまずい事態です。例の『アレ』が、再び脅迫に現れたんです!」 「また来たのか……。しつこいな……!」 それまで温厚な雰囲気だったブリミルが、非常に険しい顔つきとなった。才人は目を丸くして サーシャに囁きかける。 「あの、『アレ』って何ですか? 怪獣とは違うんですか?」 サーシャは答える。 「違うわ。言葉を話すし、一応は人間みたいなんだけど……ぼんやりとしていて幽霊みたいな 奴なの。それが、ブリミルたちに信仰を捨てて自分の下僕となるように一方的に命令して きてるのよ。どこの誰だか知らないけど、何様のつもりなのかしら」 サーシャもブリミル同様顔をしかめて、つぶやいた。 「何て名前だったかしら。キリエ何とかっていうらしいけど」 「キリエ!?」 思わず席を立った才人に、サーシャは吃驚させられた。 「どうしたの? もしかして、心当たりでも?」 「ああ、いや、まぁそんなところで……」 「とにかく行こう! また乱暴を働いてくるかもしれない! ぼくの魔法で追い払えれば いいんだが……」 杖を手に真っ先に飛び出していくブリミルの後に、サーシャと才人はテントに立てかけて あった槍を得物にして続いていく。外は話し込んでいる内に夜の帳に覆われていた。 篝火と月明かりの照明の下、村の上空におぼろげな人型の怪しい何かが浮遊している。 村の女子供は慌ててテントの中に隠れていき、若い男たちはブリミルとともに杖を握って 人魂を厳しくにらみつけている。 才人はその人魂をひと目見て、間違いではないことを把握した。あの人魂は……ロマリアの 大聖堂で目の前に現れたものと、寸分違わず同じなのだ。 そして人魂が、ブリミルたちを見下すように言い放った。 『愚かな人間どもよ……救われたくば、偽りの信仰を捨てて我々に恭順の意を示せ。我々こそが 真なる神、キリエル人である!』 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/fullgenre/pages/237.html
ゼロの使い魔の参加者の支給品の経過と消費 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール ・秘密バッグ@ヴィオラートのアトリエ →【F-10近くに放置】 ・破壊の杖@ゼロの使い魔 →【F-9 西部に放置】(残弾0) ×エリキシル剤×2@ヴィオラートのアトリエ →全て消費 平賀才人 ・ヴァンの蛮刀@ガン×ソード →【後藤@寄生獣】 ・不明支給品0~2 →【泉こなた@らき☆すた】 タバサ(シャルロット・エレーヌ・オルレアン) ・林檎×10@DEATH NOTE →【H-8 バッティングセンター内にて1つ消費】 →【H-9 警察署内にて1つ消費】 ・鉄の棒@寄生獣 ・ノートパソコン@現実 →【三村信史@バトルロワイアル】
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3248.html
前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ 「うえ~ん!!! びえ~ん!!! うわあああああん!!!」 翌朝、ルイズはベッドの上でおいおいと泣いていた。 「なんで!? なんで私がこんな目に遭わなきゃいけなかったのよ!」 ルイズは泣き喚きながらももえの胸をぽかぽかと叩く。 原因はあの時のネギである。はじめ、ルイズは頭が呆けていてよくわかっていなかったのだが翌日、下腹部から血が出ているのを見た途端にルイズは青ざめた。 「まあまあ、処女膜なんて新体操をやってる人は練習中に突き破っちゃうぐらい軟い物らしいし」 「新体操って何よ! それに全然フォローになってないわよぉ!」 殴り疲れたルイズはまたえんえんと泣き始めた。これにはキュルケもタバサもももえもなす術がない。 「だいたいあんたがネギをあんなところに突き刺すからこんなことになったんじゃないのよぉ! 無機物にバージンを奪われるなんて……うっ、うわああああああんんんん!!!!」 ルイズはベッドをドコドコと叩きながら泣き喚き続ける。 「………じゃあ、後ろ…は…これで…」 メイドのメイが取り出したのはルイズが持っていた杖だった。 「いいいいい、そっ、そんな太くて硬いので逞しいので貫かれたら大変なことになるじゃない!」 それを聞いたメイは残念そうにその杖を自らの懐にしまった。 「………ってそれ、私の杖じゃないのよ! あんた何勝手に自分のものに……ってあれ?」 「…ようやく…泣き…止んで…くれ…まし…た…。」 そう言って、メイはルイズにあっさりと杖を返したのであった。 「あっ、ありがと……。」 ルイズがこの館に来て初めて口にした感謝の言葉であった。 有馬記念で四位と武に殺意を抱いたあなたに贈る「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水下級生ももえサイズ」 落ち着きを取り戻したルイズは朝食を取ると杖を持って誰もいない裏庭へと向かった。 空は昨日とはうってかわって快晴である。太陽の光が眩しいくらいだ。 だからこそルイズは誰もいない日陰を求めて裏庭へとやってきたのだ。 杖を掲げたルイズは目の前にある大木に向かって呪文を唱える。 「メラゾーマ!」 そう言うと、杖は急激に光を帯びて周りを包み込む。そして……… ちゅどーん 見事杖は暴発を起こし、爆発した。 「もう、全然駄目じゃないのよ! この前は大きな炎を上げることができたのにぃ!」 確かに周りは爆風でめちゃくちゃになっていたのだが、自分自身はなぜか無傷という事実の重要性にルイズはまだ気づいていない。 その後ルイズは、イオ・ヒャダルコ・ザラキーマ等々の呪文を唱えてみるものの結果は同じだった。 「なんでっ…! どうして……っ!!」 ルイズは悔しさのあまり地面をドンドンと叩いた。 繰り返すがルイズの半径数メートルは爆風でぼろぼろになっているのに、ルイズは全くの無傷である。 「そうだ…。これは、杖……うん、この杖が悪いのよ! ダンジョンの中では、他の杖使ってたし。うん!」 ルイズはそう結論付けた。 「あっ、でも………。」 しかし、ルイズは思い直す。さっき使った魔法はダンジョン内でよく使ってた魔法だけだ。ひょっとしたら他の魔法は使えるかもしれない。 「だめもとでしてみようかしら………」 そうつぶやきながら、ルイズは目の前の大木に向かって杖を構える。 「はああああああああああっ!!!」 ルイズは精神を集中させ、そのすべてを指先に注ぎ込む。そして杖が光りだす。 「ファイアーボール!」 そう唱えた瞬間、光が丸くて大きな炎へと変わってルイズの杖先から発射される。そして、目の前の大木がそれをもろに受けて爆発した。 「………できた。 私、できたっ! できたぁーーーーっ!!!」 しばし呆然としていたルイズだったが実感がわくと、飛び上がらんばかりに喜びを表現した。 「いやっほう! 私はもう"ゼロのルイズ"なんかじゃない! 魔法が使える! 使えるんだー!だー!だー!」 ルイズは拳を何度も振り上げて喜びまわる。さっきまで物のせいにして落ち込んでいた人物とは思えないぐらいのはしゃぎっぷりだ。 「おーすごい、そのファイアーボールってなんかかっこいいね。」 すると、影から見ていたももえが手を叩いてルイズのことをこう褒め称えた。 「さすが私の見込んだ使い魔だねっ!」 「………えっ?」 ルイズは突然の言動に頭が真っ白になりつつも状況を冷静に整理しようとした。 「っていうか私がご主人様であんたが使い魔よね? 間違ってないわよね?」 「じゃあ証拠見せてよ。」 対するももえは気だるそうにそう言った。まるで自分が主人で使い魔の反抗をあしらっているかのようだ。 「しょ、証拠ってあんた……だいたいあんたには体に紋章が 「だって私あんたより強いし。」 「いや、強い弱いとか関係ないから。だいたい、私は貴族なのよ、わかる?」 ルイズは無い胸を張って自分が貴族であることを強調する。 「そう、私は誇り高きヴァリエール家の三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのよ! あなたは使い魔なんだから私に平伏しなさい!」 ルイズは自分でしゃべりながらテンションが上昇していた。そしてそれにももえが追い討ちを掛けるかのように 「ルイ…ルイ…ルイボスゴールド?」 「ルイしかあってないじゃのよ! あんたいい加減に私の名前を覚えなさいよ!」 ルイズはももえのせいで完全に頭に血が上っていた。さっきまで長年の目標を達成して喜びの境地に達した人物とは思えないぐらいの苛立ちっぷりだ。まあ原因はももえにあるのだが 怒りのあまり、ルイズはがしっと目の前の肩に掴み掛かる。ももえの肩は肩代わりされている死神の手がついているのだがそんな事はお構い無しに、がくがくと上下に揺らす。 「だいたいあんたここに来てから使い魔らしい事何一つしてないじゃないのよぉっ!」 「え~~~~~だってぇ~~~~~わたしも下僕とかぁ~~~~はべらせたいしぃ~~~~~だいたいあんたのいう使い魔ってぇ~~~~ どうせ下着とか洗わせてぇ~~~食事とかでわざと屈辱的なことをさせてぇ~~~~キレたら鞭とかで叩いたりするんでしょぉ~~~~~~」 ももえが突然こんなしゃべりになっているのはルイズががくがくと揺らしているので首も上下にがくがく揺れているからである。 「わっ、私をなんだと思ってるのよ!」 と聞かれたももえは即答で、 「ロリツンデレピンク髪。あとぺたんこ」 ぶちっとルイズのどこかが切れた音がした。ルイズは顔を真っ赤にさせてあらん限りの力を込めてももえを突き飛ばす。 「うるさいうるさいうるさい! 属性で私を表現するなぁーーー!!!!」 怒り狂ったルイズがももえに杖を構えたその瞬間――― 「頭に乗るな小娘。」 凍てつくような声によりはっと我に返ったルイズは、恐る恐る声のした方を振り返ってみるとそこには水兵服を着た女性がいた。 「あっ、あなたは確かももえのお母さんの……もごもご 「おっと、ももえの母親についての話はそこまでだ。」 水兵服姿の女性はすかさずルイズの口に封をする。しばしルイズは腕やら身体をもがきながら暴れていたがそれも収まってルイズはその場に崩れ落ちた。 彼女はようやくルイズの口から手を離した。 「じゃ、じゃああなたの名は…」 「ふっ、よくぞ聞いてくれた。」 ルイズが崩れ落ちたままなのを気にすることなく彼女はこう宣言した。 「ある時はドクター、ある時は鍋奉行、またある時は時の神。話が変われば職も変わる。 その名は"流しの悪魔"!」 流しの悪魔と名乗った彼女はそう言って颯爽とポーズを決める。 すると今まで様子を見ていたももえが彼女に話しかけてきた。 「流しの悪魔さん、私たちに何か用ですか?」 「ああ、お前達が勝負事をはじめようとしているのを見てたらいてもたってもいられなくなってな。」 「えっ? 反応それだけ!? っていうかもうちょっと驚くなり何なりしたらどうなのよ! 私はこいつに口を押さえられてきいずみ行きの馬車に乗せられてどっかへ行こうとしていたのよ! だいたいこの人はあんたの 「よくぞ聞いてくれたっ!」 いつの間にか復活したルイズの話を完璧に無視した流しの悪魔は、今回の目的について説明し始めた。 「今回は流しの悪魔立会人! お前達の勝負私がしかと立会いして見せようではないか!」 おー。とももえは手をぱちぱちさせている。ルイズはももえに貶され、流しの悪魔に殺されかけてますます機嫌が悪くなっていく。 「ところでお前達。さっきまでどちらが強いかについて争っていたのだな?」 ルイズとももえは頷いた。すると、流しの悪魔は 「どちらが強いかなどと争うことは不毛極まりない!」 そう怒鳴ると流しの悪魔がその場で大きく足踏みをする。 すると地面がわずかながらに隆起し、ルイズのいた場所はわずかに地割れしているではないか。ルイズは戦慄した。 「いいか、逆に考えるのだよ。"どちらが主人にふさわしいのか"ではなく"どちらが使い魔にふさわしいのか"と」 「という訳で」 流しの悪魔のその宣言によって急遽はじまった、ももえとルイズのタイマン勝負。 「第1回チキチキ使い魔三本勝負~~~~~!!!!」 ギャラリーは多ければ多いほど良いという理由で呼び出された、死神家一同とキュルケとタバサもいた。 彼女らは焼け野原の上に線を引いただけの特設ステージの外から二人の様子を見守る事にした。 「やるからには勝って上下関係をはっきりとつけさせてもらうわよ。モモエ」 「それはこっちの台詞だね、ルイズちゃん。」 顔を見合わせて火花を散らせる両者。キュルケとタバサはいまいち状況が飲み込めない様子で二人とも顔を見合わせるしかなかった。 「端的に言いますとももえお嬢様の挑発にルイズさんがまんまと乗ってしまわれたのであります。」 「はあ………」 キュルケは唖然としながらも博士の話を聞いていた。すると、メイやヒルから横槍が入れられる。 「……でも、…ルイズ…さん…は……、…とても…いい…人だ…と…思いま…す」 「ああ、俺もそう思うな。あそこまでお嬢さんの行動に対してノリノリの奴なんてそうはいないからな。」 「そうなんだ………。」 オクタイ君やケモンもうんうんと頷いているのを見るとどうやらルイズは、死神家の使い魔たちからは良い印象をもたれているようだった。 「ただ、肝心のお母様がねえ………」 キュルケは流しの悪魔のほうを向いて小さくため息をついた。 「私にもわからない………。」 タバサもそう呟いた。流しの悪魔が時折向けるルイズに対する鋭い視線がタバサにとって気がかりであった。 そして流しの悪魔からまだ明かされていなかったルールについて言い渡される。 「使い魔というのは、感覚の共有、秘薬の捜索、主人の護衛。大きく分けて3つあるのだが………」 ルイズとももえがごくりと息を呑む。 「今回はそんな非現実的なことはしない。なのでかわりに家来、下僕、パシリ。この3つの称号をかけて争い、より多くのポイントをゲットしたものを勝者とする。」 「………はぁ?」 「では、そう決まったところで"家来"の称号を得るための第一勝負についてだが………」 「ちょ、ちょっと! あんたいい加減にしなさいよ! なんど私を無視すれば気が済むの………って、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!! みっ、耳は引っ張らないでぇ!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」 「すでに勝負は始まっている。油断するな、小娘」 流しの悪魔は無表情のままルイズの右耳を引っ張っていた。ルイズの耳がだんだん赤く腫れ上がっていくのがわかる。 「おー、二人とも楽しそうにじゃれあってるねえ」 「これのどこがじゃれあってるように見えるのよぉ!」 ルイズは涙目になりながらそう叫んだ。 「仕方ないなぁ………何とかしてほしい?」 ルイズは首を激しく縦に動かす。そして、それを見たももえはカマを取り出してルイズの耳元に構える。 「じゃあ…それごとルイズの耳を切断……」 「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!」 「大丈夫、大丈夫 盲目の人でも皇帝暗殺をしようとした元気な人もいるから。だから耳ぐらいどうってことないって」 ???ものしり館??? 高漸離【こうぜんり】 中国戦国時代の人物。秦王(始皇帝)の刺客として有名な荊軻の親友である。 荊軻の復讐を目論んだ高漸離は筑の才能を生かして名前を隠して秦王に使えていた。 後に高漸離の目論みは秦王に露見したのだが、才能を惜しんだ秦王は高漸離の目を潰してそのまま仕えさせた。 高漸離は筑を投げつけて秦王を殺そうとしたが、盲目だったため外れて謀殺された。 「いやいやいやいや 目と耳じゃ全然違うから。だいたい皇帝暗殺しようとした人って元気って呼べる人なの? っていうかどうでもいいからこの手を離し…痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!! ちぎれるっ、ちぎれるっ、ちぎれるううううううううう!!!!」 すると、流しの悪魔はようやくルイズの耳から手を離した。ようやく解放されたルイズは肩で息をし、耳は真っ赤に腫れ上がっていた。 「はぁ………はぁ………はぁ………死ぬかと思ったわ。」 「死ぬかと思ったなどと言ってる内は決して死にはしないから安心しろ」 そんな二人を回避して傍から見ているももえ。 「…………」 「…………」 流しの悪魔とルイズが戯れているのをよそにタバサは思っていた疑問をももえにぶつけた。 「これって勝負に勝った方が使い魔になるんじゃ………」 「ううん。そんな事無いよ。だからわざと負けるとかそんな卑怯な真似はしないからね。」 ももえは笑顔でそう答えた。そして、その直後にさらっとこんな言葉を吐き捨てた。 「負けたらそれ以下だからね。」 「……以下なの?」 「うん、以下。」 そうこうしているうちに流しの悪魔からこんな一言が飛び込んだ。 「下僕部門 勝者 ももえ」 「……えっ、でもモモエは何も………。」 「耳をつねられて"気持ち良い"の一言も言えないようじゃ下僕失格だ。」 流しの悪魔はそのように説明する。 「あんたは大丈夫なの?」 「うん、私悪魔の体だから!」 「…………もう私の負けでいいわ…。」 能天気に答えるももえにルイズはがっくりと肩を落としたのであった。 「続いて家来勝負を行う」 そう言われて二人はももえの屋敷の中に案内される。 流しの悪魔は手馴れた様子で二人を先導した。ギャラリーもそれに付いて移動する。 「普通に迷わず通れば何事も無い家だ。しかし………」 流しの悪魔は傍らにある扉を開けた。すると――― 「なっ、何よこれ!」 ルイズが驚くのも無理は無い。そこには今までいた家とは違う空間を形成した吹雪いている一室があったのだから。 「なんだ、お前は雪は見たことが無いのか?」 「それぐらい見たことあるわよぉ! だけどこんな脈略もなく雪を見たのは初めてだから………」 耳の件があったのでどうしても強く責め立てる事が出来ないルイズ。流しの悪魔は二人にあるものを渡した。 「これは………?」 「草鞋だ」 流しの悪魔が渡したのは草鞋だった。ルイズははじめてみるそれをまじまじと見ている。 「これを見るのははじめてか?」 「うん。教科書の写真で見たことはあるけど実物を見るのははじめてかな。」 流しの悪魔はにやりと笑う。早速二人に指令を言い渡す。 「それを二人に人肌で暖めてもらう」 「「えっ………?」」 「その草鞋をどれだけ暖かくすることが出来るか。より暖かくしたほうが勝者だ。 制限時間は1時間。なお、ホッ○イロとかそういう物を使うのは禁止とする。」 そう言って流しの悪魔はももえが隠し持っていたホッ○イロを取り上げる。 不服そうなももえをよそにルイズは手に持った草鞋を注意深く観察していた。 「では、はじめっ!」 流しの悪魔が笛を吹いた瞬間、二人はオクタイ君によって部屋の中に放り出された。そして外から鍵がかけられる。 「ちなみに二人の様子は別室でモニタリングしております。」 部屋のどこかにあるスピーカーから流しの悪魔の声が聞こえてきた。 「じゃあ、私たちは休憩しながら見るから適当にがんばってくれ。 うどん食べる人ー!」 はーい!という威勢のいい声がスピーカーから聞こえてくる。頭にきたルイズは、手にした草鞋を声のする方向へ力いっぱい投げつけた。 ブチ!………ジジジジジ……… 「ナイスコントロール!」 ももえは右親指を立ててそう言った。ルイズもそれを真似してみる。そして、ルイズは壊れかけのカメラとスピーカーを完全に壊す作業に取り掛かった。 「寒い………」 不自然なまでに強くて冷たい風がルイズの身体をたたきつける。 「あんたは平気なの?」 ルイズは、こんなに寒いのに肩出し、へそ出しと露出しているのにもかかわらず平気そうにしているももえを見てそう言った。 「うん、私悪魔の身体だし。寒さとか熱さとかそういうのは平気だから」 「へぇ…………」 しかし、問題はこの草鞋だ。この草鞋をどの様にして温めるのか。ルイズは懐に入れていた草鞋を取り出してみる。 「全然暖かくない………」 元々冷え切っている草鞋をこの寒さで冷え切った身体で暖めるのは無理な話だ。ルイズが草鞋を外気に晒しているうちにどんどん草鞋に雪が積もってくる。 「うーん………」 ルイズは積もってくる雪を払いながら必死に考えていた。髪にも雪が降っているのだがそんなことを気にする余裕が無かった。 「うーん………」 困っているのはももえも同じだった。ももえ自身の体温調節は問題ないのだが、ももえの着ている服では草鞋を入れて暖められるようなスペースは無い。 「「あっ」」 二人同時に何かをひらめいたようだ。二人は草鞋をある場所に仕舞う。 吹雪が激しさを増し、腰の辺りまで雪が積もってきてはいたが、二人はゆっくりと活動を停止していった。 「………イズ、ルイズ!」 「あ………キュル…ケ?」 ルイズが目を覚ますとそこには雪が一面に広がっていた。キュルケ達は防寒着に身を包み、同じく雪に埋もれていたももえはタバサに救出されていた。 「よかった………!」 キュルケは思わずルイズを強く抱きしめる。 「大丈夫? 苦しくない?」 「くっ、苦しい………。」 キュルケの胸に挟まれたルイズは息苦しそうに足をジタバタとさせる。 「大丈夫………?」 「あー、うん。私は平気」 タバサに抱きかかえられたももえもそう答えた。こっちは比較的元気そうだ。 「ところで、草鞋はどうしたのだ?」 流しの悪魔がそう言うと、ももえは胸の谷間から草鞋を取り出した。 「はいっ」 雪のせいで部屋の室温が冷え切ってる中でももえの草鞋はほかほかと湯気を漂わせている。 「なるほど………服の表面積の圧倒的な少なさから言ってももえが不利になると思っていたのだが………よくやったな。」 流しの悪魔はももえのアイデアにいたく感心していた。 「では、ルイズの方だな。」 そう言うと、皆がルイズのほうに注目する。 「ルイズ、お前は草鞋をどこで暖めたのだ?」 「えっ」 それを問われたルイズはまたたくまに顔が紅潮し、目が泳ぎ始めた。 「えっ、えっと……草鞋は………その…」 「わしならここにおる!」 「我もここにいるぞ!」 どこからともなく甲高い男の声が聞こえてきた。ももえ達も辺りを見渡す。しかし、ルイズの顔は見る見るうちに青ざめていた。 「ま、まさか……ひょっとして…いやああああああああっ!!!」 ルイズの叫び声とともに草鞋がルイズの背中から飛び出てきた。 その草鞋もほかほかと湯気を漂わせており、暖まっているのがわかる。しかしその湯気は暖まったというより草鞋の怒りによるものだと思えて仕方が無かった。 「誇り高き、我が草鞋を尻に敷くなどの粗末な扱いをしたのはどこのどいつだ!」 「その通りじゃ! 物の正しい使い方を知らぬ小娘め! わしらを馬鹿にすると痛い目にあうぞ!」 「えっ、えっ、ええええっ!?」 「あー………ルイズちゃん、草鞋をお尻に敷いちゃったんだ。」 二足の草鞋がしゃべっているこの状況に戸惑いまくるルイズに対し、ももえは両手を開いてやれやれといった表情を作る。 「草鞋を尻に敷くなんて御法度なんだよ。この草鞋は人の足に履かれるのを喜ぶんだけど尻にしかれるとむちゃくちゃ怒るんだよ。」 「ええーーっ!!!」 「その通りじゃ! 草鞋は尻に敷くものではないのじゃ!尻に敷かれるのは女房だけで十分なのじゃ! こりごりなのじゃ! こりごりなのじゃ!」 「我も同じ意見である! 胸に挟むならまだしも尻に敷くとは言語道断! 全く、貧乳娘の発想の貧困さには困ったものである!」 草鞋はそう言いながらルイズの頭を執拗に叩き付ける。すっかり雪がやんだ部屋はパーンパーンと無駄に軽快な音とルイズが徐々に鬱陶しそうになる声で支配されていた。 「あっ、あの………草鞋さんもそれぐらいで………」 珍しくももえが仲裁に入ろうとする。しかし、興奮状態の草鞋の片割れは勢いあまってももえの頭にも軽快に叩きを食らわせる。 スパーン……ズバッ 一瞬の出来事であった。草鞋の片割れがももえの頭に叩きつけた瞬間、ももえは手にしていたカマを軽く振りかぶる。 草鞋の片割れは見事に真っ二つに割れて、ぽとりと地面に落ちてそのまま動かなくなった。 『ももえのカマで斬られた物の存在はももえが肩代わり』 「ひいっ!」 恐れをなした草鞋は一目散に逃げてしまおうと試みた。しかし、逃げようとした草鞋をルイズは左手でがっちりと掴んでいる。中指の爪は草鞋に食い込みかけていた。 「あっ、あのっ、そのっ………」 さっきとは一転して弱気になっている草鞋。ルイズは右手に持っている杖を草鞋にこすり付けた。 「あんたね………誇り高きヴァリエール家の三女である私の尻に敷かれる事がどれだけ価値があって、どれだけ需要があるのかわかってないわね。」 ルイズは冷静な口調で草鞋に語りかける。何百年も女の尻に敷かれ続けた草鞋にはそれが並々ならぬ怒りを表現していることは十分にわかっていた。 「だから………私が焼いてあげるわ」 「ひいいいいいいっ!!!!!」 草鞋は思わず悲鳴を上げた。それに構わずルイズの杖は光りだす。そして呪文は詠唱された。 「ファイアーボーォォォォォォォォル!!!!!」 刹那、大きな光に包まれた玉が至近距離で発射され、草鞋を直撃する。草鞋は断末魔の声を上げることなく爆発した。 しかし、このルイズの渾身の呪文は部屋にいるルイズ以外の人物・物を黒焦げにしてしまったのであった。 「で、使い魔勝負はどうなったの?」 とりあえず風呂に入ってさっぱりした一同は、死神家の大広間に集っていた。メイからフルーツ牛乳が振舞われそれを飲みながらももえは流しの悪魔に質問した。 「ああ、その件についてだが…………。」 皆の視線が流しの悪魔に集まる。 「とりあえず家来勝負はももえの勝ちだ。」 「えっ………でも、私ちゃんと暖めて 「いくら説明不足とはいえ、尻に草鞋を敷くのはマナー違反だぞ、ルの字 尻に敷かれたホカホカの草鞋を欲しがるのは特殊な趣向をもった大きなお友達しかおらん」 「はい………」 色々と突っ込みたいところはあったがそれに突っ込むのは危険だと察したルイズは何も言うことができなかった。 「ちなみにパシリ勝負は大きなしゃもじをもってガリア王国の王宮に進入して、イザベラ皇女と激戦の末に晩御飯をご馳走になる……なんて事を作者は考えてたらしいぞ」 「馬鹿じゃないの!?」 思わず、キュルケからの突っ込みが入った。 「じゃあ結局私がモモエの使い魔になるのね………全然釈然としないけど。」 どこか諦めの混じった声でルイズはため息をつく。しかし、 「あっ、じゃあ私が代わり使い魔になってあげようか?」 「えっ、いいの?」 ももえの突然の提案にルイズはすぐさま食いついた。 「その代わり私にも条件があるんだけど………ルイズちゃんのこと『スレイヴ』って呼んでもいい?」 「スレイヴ?」 「うん、スレイヴ。ご主人様に変わる新しい呼び名だよ。」 ももえはさわやかな笑顔でそう言った。ルイズもその呼び名が気に入ったらしく『スレイヴ』と何度も口の中で呟き続ける。 「いいわよ。いいわよ。あんたが使い魔で私がスレイヴ あー、なんか私のほうがなんかカッコイイ感じじゃない? あっはっはっはっはっはっ」 「あっはっはっはっはっはっ」 よほど嬉しかったのかルイズの高笑いは止まるところを知らなかった。 しかし、ももえの本当の意図に気づいたタバサは思わず口を開く。 「でも、スレイヴって確かど………もごもごもごもごもごもご」 「……知らぬが……仏……です…。」 メイはタバサの口を押さえつけながらそう呟いたのであった。 ※おわり これまでのご愛読 ご支援ありがとうございました ※次回からはじまる「ゼロの使い魔死神ガーゴイル友情タバサの裏設定タバサの母フレイムデルフリンガーシルフィードネギ香水草鞋下級生ももえサイズ」に乞うご期待! 前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9363.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 幕間その八「ウルトラマンだった男たち」 伝説魔獣シャザック 登場 アンリエッタの命により、ティファニアをトリステインに案内するためにアルビオンに 発ったルイズたち。途中、才人の感情の改竄が発覚したり、ガリアからの刺客怪獣に襲われたりと 問題に見舞われたが、結果的には無事に全員で帰りのフネに乗ることが出来た。後はティファニアを アンリエッタの元まで連れていけば、任務は達成だ。 そのフネの中で、ルイズたちの任務に協力したタバサは、鏡に向かって自分の髪をいじっていた。 「……」 女の子なのだから髪くらいいじるものだろう、と思うなかれ。タバサは『タバサ』になってから この方、お洒落のような女の子らしいことには全く興味を示すことがなかった。ジョゼフに復讐を 果たすまでは、そういったことは全て切り捨ててきた。 それが変わったのは、アーハンブラ城で才人に救われてからだった。あの時、タバサは才人に 『勇者』を見た。それからタバサは救われた命を才人に捧げ、ウルトラマンゼロとして世界のために 戦う彼を支える騎士になることを心に誓ったのだ。 しかし……タバサの変化はそれだけに留まらなかったのだった。才人の顔を見ていると、 才人を意識していると、変に心が高鳴るのを感じる。どこかそわそわとしてしまい、無意識に 髪を整えたり、彼の姿を目で探したりする。ゴブニュに襲われていた時の危機的状況で、 才人にキスしてルイズの嫉妬を招くという手段を咄嗟に思いついたのも、もしかしたらそれも 関係しているのかもしれない。 そんなタバサの変化に目敏く気づいたシルフィードは、タバサが恋をしているのだときゅいきゅい 騒いでいた。しかし、タバサはそれを否定する。自分は勇者に仕える騎士なのだ。分不相応に、 恋心を抱くなんて許されない。仮に自分が気を向けたところで、勇者が好きな人は……。だから、 迷惑になるに違いない。 タバサは熱に浮かされそうな自分の思考を冷ますために、意識を別のところに向けた。 勇者といえば……疑似空間で自分とイザベラを助けてくれたウルトラマンダイナと、それ以前に…… ファンガスの森に現れた、あの名前も知らないウルトラマンは今どうしているだろうか。それがふと気になった。 才人とウルトラマンゼロは、別の世界からやってきたという。ならば彼らも別の世界にいるのか。 そこで、どんなことをして過ごしているのだろうか……。 ――無限に広がるマルチバースに浮かぶ次元宇宙の一つ。その中の地球は、かつて宇宙の彼方から 悪意を持って攻めてくる「根源的破滅招来体」という存在の脅威に見舞われていた。だが地球は、 人間と、怪獣と、そして『二人』のウルトラマンの力によってその脅威を打倒したのであった。 それから数年後……二人のウルトラマンの片方『だった』青年は、とある研究施設の格納庫にて、 カナダのアルバータ州に広がる樹海に建つログハウスにいる女性と電話していた。 「キャス、エントの調子はどうだい?」 『バッチリよ! もうプログラムには何の欠陥もない。ガム、あなたやみんなが手を貸して くれたお陰でね』 女性の名はキャサリン・ライアン。実際に根源的破滅招来体に立ち向かい、地球を守った 天才児集団アルケミー・スターズの一員であり、自然循環システム・エントの開発者である。 彼女の発明したエントにより、人間により伐採されてきた森林は徐々に回復していっているのだった。 『プアァ――――――――!』 『キュウー!』 テレビ電話に映る、ログハウスの窓の外の樹海の光景を、背中にヤマアラシのようなトゲを 生やした巨大怪獣が、四匹の子供をぞろぞろ引き連れて横断していった。怪獣の名はシャザック。 かつてこの樹海で人食いの伝説の魔物として恐れられていたが、実際は温厚な性質の怪獣だ。 キャサリンはエントの起動実験を巡ってシャザックと争ったこともあるが、その時のエントには 致命的な欠陥があり、シャザックはそれを止めようとしていただけということを知って、己の過信を 深く反省したキャサリンはアルケミー・スターズの仲間の手も借りて、今度こそエントを完成 させたのであった。シャザックも、もう攻撃してくることはない。 そしてその仲間の一人が、今通話している青年……かつてウルトラマンガイアであった、 この高山我夢である。 「よかった。君のエントで自然が復活したら、人間と怪獣は本当に共存できる世界に近づくかもしれない」 『私も、その世界が一日でも早くやってくることを望んでるわ。怪獣も人間も、地球の自然の一部。 一緒にこの地球で生きていくのが、あるべき姿だわ』 根源的破滅招来体を倒したのは、アルケミー・スターズだけの力でも、ウルトラマンだけの 力でもない。人間と怪獣、そしてウルトラマン。この地球に生きる全ての命が手を取り合うことで 勝利と未来を掴めたのだ。 しかし人間と怪獣は生活の大きな違いから、未だに交わって生きていくことが出来ない。 互いに不干渉を貫いているのが最善という現状である。だが、我夢はそんな状態もいつかは 変え、人間と怪獣が本当に共に生きる世界を作ることを目指しているのだった。 『ガム、私たちが護った地球の未来を、私たちで作っていきましょうね!』 「ああ。がんばろう!」 キャサリンとの電話を終えると、モニターに飛行機をデフォルメしたかのようなCGモデルの キャラクターが表れた。我夢の作った人工知能、PALである。 『ガム、お客さまです』 「客?」 格納庫の扉が開かれ、もう一人の『ウルトラマンだった男』が入ってきた。 「久しぶりだな、我夢」 「藤宮!」 彼の名は藤宮博也。もう一人のウルトラマン、アグルに変身していた。一時は地球を守るためには、 自然を壊し続ける人間を滅ぼすしか方法がないと思い込んでガイア=我夢と衝突していたが、挫折と 復活を何度も経験したことで、今は迷いを捨て去って最も良い地球の未来を実現する活動を精力的に 続けている。 ウルトラマンとしての最後の戦いを終え、それぞれの道を歩み出した我夢と藤宮。この二人が こうして対面するのは、本当に久しぶりのことだった。 「ガクゾムとの戦い以来じゃないか。今日はわざわざこんなところまで、どうしたんだ?」 「何、お前が最近資金集めに熱を入れて、何かを作っているらしいとの噂を聞いてな。様子見も 兼ねて、何をやってるのか少し教えにもらいに来たんだ」 我夢は大学卒業後、地球防衛機構『G.U.A.R.D.』に就職して、己の頭脳を地球の安寧や 再び現れるかもしれない根源的破滅招来体に対する防衛機能構築のために役立てていた。 しかし最近は、思い立ったように何かの資金を集め、研究室にこもっている時間が多くなっていた。 「お前のことだ……。何か、大きな事態に対する準備をしてるんじゃないか?」 「さすが鋭いな、藤宮……。まだ完成はしてないけど、同じウルトラマンだった君にも関係 することかもしれない。ご希望通り見せてあげるよ、今僕が作ってるもの」 我夢が壁際のスイッチを押すと、壁の一面がスライドして開いていき、奥に隠されていたものが 露わになった。 「これは……」 そこに鎮座してあるのは、左右に暗緑色のホイールを備えた車両のような、ロボットのような マシンだった。このマシンを紹介する我夢。 「アドベンチャー二号。出来てるのは外装だけで、肝心の時空移動装置はこれからだけどね」 「アドベンチャー……時空移動機か。この宇宙空間の更に外側、マルチバースを移動するための装置。 ある意味では、リパルサーリフトを超えるお前の最大の発明だな」 アドベンチャー号。我夢はレベル3バース、いわゆるパラレルワールドを股にかける大事件に 巻き込まれた際、これの一号で滅びに瀕した世界に自ら突入、その世界を救ったことがあるのだった。 「XIG時代ほどに予算を自由に出来る訳じゃないから、自力で開発資金をやりくりしてるんだよ」 「なるほど。時空移動機ともなれば、安い買い物で作れるものじゃないからな。……しかし、 二号機を作るのは別にいいとして、どうして今なんだ? 作ろうと思えば、もっと早くに 出来ただろう」 根源的破滅招来体を地球から追い払ってから、もう数年が経過している。そんな半端な時期に 二号機製造に着手したのは何故なのか。 その理由を、我夢は語り始める。 「……これは誰にも話したことがなかったことなだけど……実はパラレルワールドに旅立って、 こっちに帰ってくる途中に、僕はまた別の世界に迷い込んだんだ」 「何だって? つまり、第三の世界にか?」 「どうもそうらしい。もっとも、ガイアに変身してるだけの短い時間で強制的に戻されたし、 その世界は特別危機に瀕してるという風でもなかったから、時空移動にはそういうことも あるだろうとあまり気にしてはいなかったんだけど……」 「最近になって、そうじゃなくなった、ということか」 藤宮の指摘に首肯する我夢。 「最近、同じ夢を連続して見た。それは第三の世界で僕が助けた少女に、姿の見えない恐ろしい 闇が忍び寄って、少女を苦しめるという夢だった。その夢を見た直後にエスプレンダーを握ったら…… 光を失ったこれが、一瞬だけ光ったんだ」 懐からエスプレンダー……ガイアになるために使用していた道具を取り出す。現在は変身する 力を失ったために、ランプに光は灯っていない。かつては頻繁にこれを使っていたものだ。 「これはただごとじゃない。もう夢は見なくなったけど、いつかあの世界で、僕の力が再び 必要になる時が来る。そう感じて、こうしてもう一度アドベンチャーを作り始めたんだ。 またあの世界に行けるのかどうかは分からないけど……『その時』が来たとしたら、きっと これが必要になるはずなんだ」 「なるほど、そういうことだったか……」 理解した藤宮はしばし考え込んだ後、我夢に申し出た。 「分かった。もし俺の力も必要になると感じたのなら、いつでも呼んでくれ。すぐに駆けつけよう」 「いいのか? 藤宮」 「ああ。違う世界のことでも、人間と世界を滅びから守る。それが一度光を失っても、再び アグルに選ばれた俺がするべきことだと思う。それに、お前は一人だと何かと危なっかしい からな、我夢」 「ありがとう、藤宮」 我夢と藤宮はうなずきあうと、互いの拳を突き出してガツンと合わせる。 二人のウルトラマンだった男たちが、時を重ねて別々の道を進んでも変わることのない友情を、 約束とともに確かめた瞬間であった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9332.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百三話「ゼロ最大のピンチ!変身!ウルトラマン80」 暗殺宇宙人ナックル星人グレイ 夢幻魔獣インキュラス 夢幻神獣魔デウス 超怪獣スーパーグランドキング 登場 さらわれた才人を救い出すため、リシュの支配する夢の世界への侵入を行ったルイズ。 リシュの力は想像以上に強大であったが、デルフリンガーや夢のクラスメイトたちの激励により 奮起したルイズは、遂にリシュの力を覆して才人の心を取り戻すことに成功した。しかしそこで 知ったのは、リシュの悲しい身の上だった。このままリシュを封印して終わりでいいのか……。 悩むルイズたちであったが、事態は風雲急を告げる。リシュに協力していたナックル星人が 本性を現し、インキュラスを使ってリシュを捕らえたのだ。ナックル星人の目的とは、彼女の力を 利用して最強最悪の怪獣軍団を作り出すことだった! 現れた魔デウスの能力により、その時は 刻一刻と迫る。だがリシュを人質に取られた才人は変身することが出来ない。ゼロ最大のピンチ! その時に立ち上がったのは、夢の世界での彼らの担任、『矢的猛』。しかしてその正体は、 才人の願望をリシュが知らず知らずの内に叶えたことで、宇宙を越えて夢の世界に巻き込まれた 矢的猛=ウルトラマン80本人であった! 80はリシュを救うために立ち上がる! 「シュワッ!」 ナックル星人の不意を突いて変身を遂げたウルトラマン80は、唖然として立ち尽くしている インキュラスに素早く接近。リシュを掴む腕の手首に鋭いチョップを振り下ろした。 「グウウウウ……!」 突然の攻撃にインキュラスは耐えられず悶絶。その隙を突いて、80はリシュを奪い返して 飛びすさり、才人たちの元へリシュを下ろした。 「あッ……」 「リシュ!」 才人らはすぐさまリシュの周りを取り囲んで、彼女を保護。危ないところを救い出された リシュは呆然と80の顔を見上げる。80は優しい雰囲気で彼女にうなずき返した。 「グウウウウ……!」 その時、インキュラスが背後から80に襲いかかる! 「ヤマト先生、危ない!」 思わず叫ぶリシュだが、そうするまでもなく80はインキュラスの攻撃を察していた。 相手が間合いに入ってきた瞬間に後ろ蹴りを浴びせ、返り討ちにする。 それから80は校舎から離れ、リシュたちが戦いに巻き込まれない距離を取った。 『な、何てことなのぉ~! まさかこの夢の世界に、他のウルトラマンがいただなんてぇ~!』 ナックル星人は80という全くのイレギュラーによって己の計算が丸々打ち崩されたことに 頭を抱える。そこに才人はゼロアイ・ガンモードを突きつけた。 「降参して怪獣を退かせろ! もうお前の陰謀は終わりだッ!」 投降を命ずるが、ナックル星人は往生際が悪かった。 『なめるんじゃないわよ、小僧! 戦わずして諦めたら、ナックル星人の名が廃るわ!』 「ああそうかい! じゃ、覚悟はいいんだな!?」 才人はナックル星人の足元に光弾を撃ち込んで牽制。 『キャアァッ! あ、危ないッ! あッ、いやぁぁんッ!』 気色悪い悲鳴を上げて逃げ回るナックル星人だが、背後のフェンスに気づかずに後ずさろうとして、 勢いのままフェンスを乗り越えてしまった。 『あぁッ!? あぁぁぁぁ~れぇぇぇぇぇぇぇぇ~!!』 ナックル星人はそのまま屋上から真っ逆さまに転落していった。才人は銃撃の手を止める。 主人のナックル星人の姿が消えても、インキュラスは戦いの手を止めない。鈍器のように 太い腕を振り上げ、80に格闘戦を挑む。インキュラスは人型に近い体型もあって、格闘戦を 得意とする強力な怪獣だ。 だが、80はバッバッと風を切る音が発せられるほどの速い身のこなしにより、インキュラスの反撃を 許さずに叩きのめしていく。水平チョップが相手の側頭を打ち、すくい投げで百八十度ひっくり返して 地面に叩きつけ、おまけに後ろ回し蹴りがインキュラスを大きく吹っ飛ばした。 「グウウウウ……!」 インキュラスはきりもみ回転しながら激しく転倒。80のあまりの攻撃スピードに、まるで ついていくことが出来なかった。 普段は柔和な物腰の80だが、その胸の内には熱く燃える闘志と勇気がたぎっている。いざ戦いに なると、彼は背にしているものを守り抜く凄腕の戦士となるのだ! 「す、すごい実力……!」 「いいぞー! 先せーい!!」 ルイズとリシュは80の強さに目を見張って驚き、80の教え子たちは口をそろえて歓声を上げた。 このままインキュラスを完封するものかと思われたが、しかし、そう上手くは戦いは運ばなかった。 それまで沈黙を守っていた魔デウスだが、80を外敵と見なしたのか、卵型の姿からブーメラン状の 形態に変身し、ぐるぐる回転しながら80へ体当たりをしていく。 その飛行速度は、80のスピードにも迫るほどであった! 「ウッ!」 強烈な体当たりを真正面から食らい、さしもの80も弾き飛ばされる。 「あぁッ! 矢的先生!」 色めく教え子たち。それでも80はすぐに立ち上がり、まっすぐ伸ばした両腕を飛行する 魔デウスに向け、螺旋状のレーザーを発射した。ウルトラスパイラルビーム! しかし魔デウスはスパイラルビームを身体全体で吸収し、ダメージを受けない。それどころか エネルギー光線として80に撃ち返した! 「ウワァッ!」 自身の攻撃の威力をそのまま反射され、80もたまらず地面に投げ出された。伝説の怪獣とまで 呼ばれるほどはあり、魔デウスの能力は恐ろしいものであった。 「グウウウウ……!」 更に80にボコボコにされていたインキュラスが戦闘に復帰。怪しいオーロラのカーテンを放つと、 起き上がった80をその中に閉じ込めてしまう。 脱出を図る80だが、オーロラの檻は触れるだけで80にダメージを与え、破ることが出来ない! 「ウゥッ!」 「80が危ないわ! サイト!」 「おっしゃ!」 二大怪獣によって窮地に陥る80の加勢に入ろうと、才人は勇んでゼロアイを装着しようとする。 しかし、それを80の教え子たちに止められた。 「いや、先生はまだ大丈夫さ。俺たちの先生は、あれしきのことでへこたれたりはしないんだ!」 「えッ?」 才人らが目を丸くして振り返ると、教え子たちは80を見上げる瞳を輝かせながら口々に言う。 「先生はとても強かった! その戦う背中はいつだって、僕たちに愛と勇気を教えてくれた!」 「誰かを守るために戦う先生は、負けたことなんか一度もなかった!」 「勇敢に戦う姿で、不登校児だった僕の心を開いた!」 「俺の失恋の悲しみの塊を晴らしてくれた!」 「ある時は親子怪獣のために、自ら悪役を買って出る優しさも見せた!」 「自分が宇宙人だと現実逃避してた僕の弱さを正してくれた!」 「悪気のない騒音怪獣を倒さずに宇宙に帰してあげたりな!」 「あたしたちみんな、先生から大事なものをいっぱい学んだのよ!」 博士、落語、塚本、中野、スーパー、大島、岡島、ファッションが語り、集った教え子全員で 80を応援する。 「先せーい! がんばれー!!」 果たして80の愛した彼らの声は、80自身の何にも代えがたい力となったのだ! 80は背筋を伸ばして持ち直し、左腕を天高く、右腕を真横に伸ばしたL字のポーズを取る。 これは80が彼の超能力を発揮する際に取る体勢であり、逆転のポーズなのだ。 80はそのまま一回転すると同時に、腕から次元エネルギーを照射。それがインキュラスの 放ったオーロラの檻を消滅させる! 「グウウウウ……!?」 自身の力が破られたことに動揺するインキュラス。80はそこに伸ばした手先からの光線、 ウルトラショットを撃ち込む。 「グウウウウ……!」 ウルトラショットが頭頂部に命中し、インキュラスはたまらずに倒れ込み、昏倒。その間に80は 魔デウスの方を相手取る。しかし魔デウスには光線技が全く通用しない。ウルトラ戦士の大きな長所を 丸々一つ潰す脅威の能力を持つ敵に、80はどう戦うつもりなのか。 すると80はその場でバク転したかと思うと、空中で膝を抱えて丸まった体勢で高速回転。 そしてボールのようになった状態で飛び回り、魔デウスに肉薄していった! これぞ秘技、ダイナマイトボール作戦! 「うわぁッ!」 まさかそうするとは思わなかったルイズたちは、驚嘆の声を発した。 回転しながら空中を縦横無尽に飛び回る80と、魔デウスが何度も衝突。その結果は、魔デウスが ぐらついてスピードを落とす形となった。 「タァーッ!」 この絶好のチャンスを逃す80ではない。ダイナマイトボールを解くと更に一回転して、 片足の先にエネルギーを集中した飛び蹴りを仕掛ける! 必殺、ムーンサルトキック! 80の一撃をもらった魔デウスは、卵型の状態に戻って林の真ん中に墜落したのであった。 「やったぁーッ!」 80の教え子たちが沸き立つ。着地した80は、ちょうど起き上がったインキュラスの方へと振り返る。 「グウウウウ……!」 インキュラスは最早自棄になって80へ遮二無二突撃していくが、80は再びL字のポーズを取ると、 ワイドゼロショットのように腕を組み直して必殺光線を放った! 80の十八番、サクシウム光線だ! 「グウウウウ……!!」 サクシウム光線の直撃を受けてもがき苦しむインキュラスの全身から、フラッシュが焚かれる。 その直後に跡形もなく爆散! 「勝った! 80の勝利だわ!」 「わぁぁぁぁぁ―――――――――! 先せぇぇいッ!!」 見事な80の大勝利。はしゃぐルイズに安堵する才人。教え子たちは、今は大人の姿になっているが、 この瞬間はありし日の……80の地球滞在時の活躍を見守り、応援していた子供時代のように喝采を 上げたのだった。 「ヤマト先生……!」 リシュもまた、80の勝利に映える立ち姿をほれぼれと見上げた。 ――しかし、勝利の喜びに水を差す笑い声がどこからか発せられる。 『オ―――――ホッホッホッホッホッ!』 「! この声、ナックル星人! どこだッ!」 ナックル星人の笑い声だと気づいた才人が周囲を見回した。 「あッ! あそこ! あの卵怪獣のところよ!」 ルイズが指し示した先、墜落した魔デウスの上に、ナックル星人は浮遊していた。ジュリ扇を はためかせて、才人たちや80に言い放つ。 『ものの見事にやってくれたわねぇ、あんたたち。お陰で大分作戦が狂ったわ。けど残念! この魔デウスを呼び出した時点で、最低限の部分はクリアしたのよ!』 「何だって!?」 驚きの声を上げ、身体を強張らせる才人たち、そして80。 『サキュバスの小娘の能力がないからには、魔デウスの力の全ては制御し切れなくなったけれど…… こうすることで、アタシは最強の力を手に入れるわぁッ!』 ナックル星人の全身が不気味なオーラに包まれたかと思うと……一直線に魔デウスへと飛び込んだ! 『はぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!』 「な、何を!?」 ナックル星人が魔デウスの表面に吸い込まれていった。そして……魔デウスが突然、本物の 卵よろしくバックリと二つに割れた! その中から、巨人のウルトラマン80をも超越する大型怪獣が地響きを立てて出現する! 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 鋭く凶悪な目つきと面構え。両手は巨大なクローとなっていて、シャベルのようにも見える。 背には内に反った突起がいくつも並ぶ。生物ではあるが同時に機械のようにも見える巨躯。 それから発せられる咆哮は大気を揺るがし、才人たちの肌をビリビリと震わせた。 「あ、あいつは……!」 「すさまじいプレッシャー……!」 ルイズは怪獣の全身から放たれる威圧感だけで、新たな怪獣が普通のとはひと味もふた味も 異なる恐ろしいものだと感じ取った。 怪獣の内部に満ちた闇の空間に、精神体と化したナックル星人が宿り、高笑いを上げた。 『オホホホホホホホ! これぞかつて闇の宇宙の帝王が生み出し、ウルトラ兄弟を追いつめるほどの 力を見せつけた超怪獣グランドキング! それを更にパワーアップさせたものよぉ! このグランドキングと アタシは一体となった! 怪獣軍団がなくとも、この超パワーがあれば世界を滅ぼすには十分! そして 現実世界へと繰り出し、世界を征服してやるわぁーッ!!』 ナックル星人の恐ろしい野望。スーパーグランドキングとでも呼ぶべき怪獣の姿となり、 ハルケギニアを滅ぼそうというのだ! あんな大怪獣が現実世界に出てしまえば、未曽有の 大被害は免れないだろう。 「そんなことさせるもんか!」 『才人、いよいよ俺たちも行くぜッ!』 あれほどの敵を、80一人には任せていられない。才人は変身の姿勢を見せるが、その前に ルイズに呼びかけた。 「ルイズ、デルフを俺に!」 「ええ!」 携帯端末の姿を才人へ渡すルイズ。今はこんなナリでも、ともにあれば変わることがきっとある。 「よし、行くぞ! デュワッ!」 そして才人はゼロアイを装着し、ウルトラマンゼロへと変身を遂げた! 80の隣、グランドキングの 正面に降り立つゼロ! 『待たせたな。テメェの野望はこのウルトラマンゼロが許さねぇぜ、ナックル星人!』 『誰も待ってなんかないわよッ! お邪魔虫め!』 ナックル星人が文句を放ったが、ゼロはお構いなしだ。 『よろしく頼むぜ、80先輩! 一緒にハルケギニアと、俺たちの後ろにいるみんなを守ろうぜ!』 『ああ! ともに戦おう、ゼロ!』 並び立ったゼロと80、二人の勇者。彼らは呼吸を合わせ、強大な悪へ敢然と立ち向かっていく! 『でぇりゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』 二人のウルトラマンがグランドキングに肉薄し、ウルトラパンチを浴びせる! 『やったわねぇ、ちょこざいな! けど、グランドキングにちょっとやそっとの攻撃は通用しないわよぉッ!』 「グワアアアァァァァァァァァ!!」 だがゼロと80の、二人の一流戦士の攻撃を受けて、グランドキングにさしたるダメージはなかった。 そのあまりもの巨体は、防御力も相応するものなのだ! グランドキングは逆にクローでゼロたちを殴り飛ばした。 「ウッ!」 『うおぉぉッ!』 どうにか踏みとどまったゼロと80は、打撃は効果が薄いと見て、相手の両腕に飛びつき 抑え込もうとする。 『おおおおおおおおおッ!』 ゼロたちは超怪力を振るってグランドキングを押していき、校舎から引き離していく。が、 『ええいッ! 鬱陶しい!』 グランドキングが腕を振り回すと、二人とも軽々と弾き飛ばされた。 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 「ウワァッ!」 『ぐぅッ!』 人間をはるかに超越した力を持っているはずのウルトラマンを、まるで子供扱いだ! ルイズたちはグランドキングの恐るべき戦闘力を実感した。 『何の、まだまだ! こいつでどうだぁぁぁッ!』 ゼロのワイドゼロショット、80のサクシウム光線が同時に発射され、グランドキングに クリーンヒット! 激しい爆発が起こる! 「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」 ……しかし、必殺光線同時撃ちでも、グランドキングに効いている様子はなかった! 『何だと!?』 目を見張るゼロ。大怪獣であることは分かっていたが、まさか合体光線が全然通用しないとは。 かつてグランドキングと交戦したゾフィーからタロウまでのウルトラ六兄弟が大苦戦を強いられたと いう話もうなずけるというものだ。 『オーホホホホホホホホッ! 無駄よ、無駄ぁッ! 最早アタシの力はあんたたちウルトラ戦士も 凌駕したわ! あんたたちはもう、グランドキングに叩き潰されるだけの存在と化したのよッ!』 圧倒的な武力を背景に、いい気になって勝ち誇るナックル星人。追いつめられるゼロたちの様子に、 ルイズもリシュも、80の教え子たちでさえ不安の表情となる。 だが、こんな脅しには、今のゼロは屈したりなどしなかった。 『そいつはどうかな!』 『何ですってぇ!?』 『確かにそいつは強えぇぜ。とんでもねぇ闇のパワーだ。けどな……俺たちにはもっと素晴らしい 光のパワーがある! それはお前の一人きりの孤独な力とは違う……心と心の絆の力だ!!』 そう言って、ゼロは己の内の才人に呼びかけた。 『そうだろう、才人!』 『ああ! 数え切れない苦難を乗り越えてつないだ俺たちの絆の光、見せてやろうぜ!』 『相棒たち、俺もいるぜ! 俺はお前たちの剣! 力になるなら俺の他にいるもんかい!』 ゼロと才人とデルフリンガー、三人の心が一体となって、闇を打ち払う光となる! 『よぉし! 見せてやるぜ、ナックル星人! 俺たちの光を! たくさんの人の希望が形となった…… この奇跡の鎧をッ!』 ゼロが左腕を掲げると、ウルティメイトブレスレットが激しく発光! そして拡大していき、 鎧となってゼロの身体を包んだ! ウルティメイトイージスの完成! しかも今回は、それだけに留まらない! 『おッ、今度は剣だけじゃなく鎧にまで俺は宿ってんのかい。へへッ、それも悪かねえな!』 イージスからデルフリンガーの声が発せられた。そう、ゼロツインソードの時のように、 デルフリンガーの意識をイージスに宿らせてより力を上げた、ウルティメイトイージスDSと したのであった! 才人が大きな試練を乗り越え、心の光が以前よりも一層強まったことで、 この新たなるステージへと到達したのである。 『ナックル星人! テメェの悪事なんざ、二万年早いってことを俺たちが教えてやるぜぇッ!』 三人の心を一つにしたウルティメイトゼロが、巨大な闇の力を迎え撃つ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9460.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第百六十話「ガリアの叫び」 死神 破滅魔虫カイザードビシ 最強合体獣キングオブモンス 巨大顎海獣スキューラ 骨翼超獣バジリス 登場 ロマリア対ガリア。人と人の戦争を食い止めるべく、アンリエッタは周囲の反対を振り切り、 アニエス一人だけを連れて“敵国”に交渉に赴くという無謀染みた冒険に出た。今のガリアは 何が起こるか分からない危険地帯。しかしアンリエッタたちは意外なほどに何の障害にも遭わず、 ジョゼフとの会談に臨むことが出来た。 そしてアンリエッタが一週間も掛けて纏め上げた、ガリアの停戦を引き出す切り札となる 書類の束を読み上げたジョゼフは、次のように唱えた。 「すごい提案だな。ハルケギニア列強の全ての王の上位として、ハルケギニア大王という 地位を築く。そして、他国の王はそれに臣従する……。ロマリアを除いて」 「ええ。ロマリア教皇聖下におかれては、我らにただ“権威”を与える象徴として君臨 していただきます」 「その初代大王に、余を推薦すると書かれているが、まことかね?」 その問い返しに、アンリエッタは即座に肯定した。 これがアンリエッタの導き出した交渉案。ジョゼフがエルフと手を組んだり怪獣を駆使 したりしているのは、究極的には世界の覇権を握りたいから。ならば実際に握らせてやろう ではないか、とアンリエッタは考えたのだ。目的を達成させてしまえば、ジョゼフはエルフや 怪獣の力など必要としなくなるだろう。だからこの申し出の引き換えとして、エルフたちと 完璧に手を切らせる。そうすればロマリアの“聖戦”もストップだ。 またアンリエッタは、実際のジョゼフは“無能王”という蔑称とは程遠い頭脳の人間で あることを悟っていた。せっかくの世界の頂点の座を失うような軽挙妄動には出るまい。 そこまで計算しての交渉であった。 この前例などある訳がない交渉案には国内の誰もが猛反対したものだが、聡いマザリーニだけは 称賛した。そして肝要のジョゼフもまた、素直に感心していた。成功だ、とアンリエッタは手ごたえを 感じていた。 の、だが……。 「んー、だがな。その提案にはのれぬのだよ。残念ながらね」 ジョゼフからの返答に、アンリエッタたちは衝撃を受けた。その衝撃は、続くジョゼフの 言葉で更に大きくなる。 「余がただの欲深い男なら……一も二もなくあなたの提案にのったであろうな。だがな、 そうではない。おれは別に世界など欲しくはないのだよ」 「どういう意味ですか?」 背筋に嫌な汗が垂れるのを感じながら、それでも不安に押し潰されてしまいそうな己を 鼓舞しながら聞き返すアンリエッタ。と、その時、 『ホッホッホッ! 実に愚かな小娘です。ジョゼフ陛下のお心を欠片も察しないで、見当 はずれも甚だしい交渉を携えてのこのことやってくるのですから!』 いきなり虚空から、罵倒の言葉がアンリエッタに浴びせられた。アンリエッタとアニエスが 反射的にそちらを見上げると、いつの間にか空中に怪しい人影が、あぐらをかいたような姿勢で 漂っていた。 右手が槍のように尖っている、人のようで明らかに人間ではない異形の身体に紫色の袈裟 一枚を纏っている。ハルケギニアにはない概念の、オリエント的な装いはアンリエッタたちの 目には新鮮であった。 あの怪人は何なのか。少なくともエルフではない。ではジョゼフと組んでいる宇宙人か何かか? しかし、今までに見てきた宇宙人とは雰囲気が異なる。宇宙人たちの、己の力を過信した傲慢さは 同じく存在しているが……こちらを見下ろしている目つきが違う。 あの眼差しに宿っているのは、傲慢さだけではない……こちらに対する侮蔑と、心の底からの 嫌悪の色がはっきりと見て取れるのだ。 「何者ッ!」 警戒したアニエスが剣を抜き放とうとしたが、その瞬間ミョズニトニルンのガーゴイルが 飛びかかってきて抑えつけられてしまった。 「くッ……!」 ジョゼフはその一連の流れがなかったかのように、宙に浮かぶ怪人に呼びかける。 「そう手厳しいことを言うな、死神よ。アンリエッタ殿の提示した条文は、普通ならば文句の つけようのない正解だ。おれにもこれ以上は思いつかぬ。ただ……残念なことに前提が違っている。 それだけのことだ」 「前提……? あなたのおっしゃる前提とは何なのですか?」 恐る恐るアンリエッタが問いかけると、ジョゼフはきっぱりと答えた。 「おれが望むものは、地獄だ。地獄が見たいのだよ、おれは」 「お戯れを」 「戯れではない。おれは嘘偽りなく、この胸を蝕んでやまぬほどの地獄が見たいのだ」 アンリエッタの理解を超越するほどの内容を口にしながら、ジョゼフは部屋の端へと歩いていく。 「そういえばあなたはおれに、エルフと手を切らせたいようだが、実は向こうから既に見放されて いるのだ。だからその点は達成している。だが……残念ながら、あなた方はおれがエルフと手を 組んでいるだけの方がまだ良かったと思うことだろう」 そしてジョゼフが手に取ったのは、歪なトゲがびっしりと生えた赤い球。アンリエッタは、 その球から身体の芯が凍りついてしまいそうなほどの悪寒を感じ取った。 「もう十分な頃合いだろう。おれはおれの望む地獄を作り始めることにする。どうせだから 見物していきたまえ、アンリエッタ殿」 歪な球を手にした、悲しいほどに空虚な表情の男はそのように唱えた。 そうして起こったのが、ガリアの空を覆い尽くさんとばかりに広がった、いや今も広がり 続けているドビシの群れ。それから生まれたカイザードビシの軍団の、カルカソンヌへの襲撃である。 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 カルカソンヌに現れたカイザードビシは一度に三体! 単眼と膝に備わった眼球から怪光線を 放ち、街を攻撃して人々を追い立て回す。 「うわあああぁぁぁぁぁッ!」 カイザードビシの攻撃から必死に逃げ惑う人間たち。そこにはロマリア軍やガリア軍の 区別はない。怪獣、いやジョゼフにとって、人間の所属など最早意味を成していないのだ。 「くッ、何てことになっちまったんだ……」 地獄に塗り替えられていくカルカソンヌの光景を、才人たちはシルフィードの背中の上で 歯ぎしりしながら目の当たりにしていた。才人はウルトラゼロアイを装着しようとウルティメイト ブレスレットに手を伸ばしかけたが、それをゼロが制止する。 『待て才人! あの怪獣どもは使い走りに過ぎねぇ。ジョゼフを叩かないことには意味ねぇぜ!』 「けど、今襲われてる人たちはどうするんだ!?」 『そちらは私たちにお任せを!』 『俺たちがいることを忘れたのかよ、サイト!』 才人の叫び声に応じるように、ミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボットの三人が カルカソンヌの地に集結! すぐにカイザードビシに立ち向かっていく。 『行くぞ! ジャンファイト!』 『うらぁぁぁーッ!』 三人はカイザードビシの一体ずつに肉薄し、打撃を加えて人間たちへの攻撃を食い止めた。 幸いなことにカイザードビシのパワーはそれほど高くなく、ミラーナイトたちならば容易に 押し切れる程度のレベルであった。 しかしカイザードビシの腹部が開いたかと思うと、牙の生えた不気味な触手が伸びてきて ジャンボットとグレンファイヤーの首に巻きついた! 「ピィ――――――ッ!」 『ぬぅッ!?』 『うげぇッ!』 首を締めつけられて悶絶する二人だったが、触手は放たれたミラーナイフによって断ち切られる。 『大丈夫ですか!?』 『助かった、すまない……!』 『もう油断しねぇぜ! とっとと決めてやらぁッ!』 これ以上戦いは長引かせないと、ミラーナイトたちは必殺技を一斉に繰り出す。 『シルバークロス!』 『ジャンミサイル!』 『グレンスパーク!』 三人の攻撃がカイザードビシ一体ずつに入り、瞬時に木端微塵にした! 『はッ、どんなもんだい!』 と勝ち誇るグレンファイヤーであったが……彼らが敵を撃破した直後に、空のドビシの 群れからいくつかの塊が降ってきて、それらが新しいカイザードビシを三体形成した! 「グギャアーッ! グギャアーッ!」 『ん何ぃ!? 追加とかアリかよ!』 『こんな調子では、いくら倒してもキリがないぞ!』 焦りを見せるジャンボット。カイザードビシ一体が出来上がるのにドビシが数百体も必要 なのだが、群れは少なく見積もってもその百倍以上で形成されているのだ。 『くっそ!』 グレンファイヤーが先に群れから倒してしまおうと空にグレンスパークを飛ばしたが、 群れの一部に一瞬穴を開けただけだった。数が多すぎて、彼の炎でも焼き尽くすことが 出来ないのだ。 これではどう考えても、ミラーナイトたちが力尽きる方が先である。 『……ですが、やる他はありません!』 それでもミラーナイトたちは戦意をかき立てて、カイザードビシを食い止める。 「みんな……!」 仲間たちの苦闘ぶりを目の当たりにして胸を痛める才人。これをどうにかするには、やはり 事態の根源たるジョゼフを止める以外にない。 シルフィードにジョゼフの元へ急行してもらおうとしていたのだが、意外にも向こうから 才人たちの方にやってきた。 『あのフネ! あそこにアンリエッタ姫さんの気配があるぜ! ジョゼフもそこだ!』 ゼロが告げたのだ。見れば、空の彼方よりガリア軍の小型フリゲート艦がカルカソンヌへと 飛んできていた。 「よし! シルフィード、頼んだぜ!」 すぐにフネへと接近していこうとした才人たちだったが……フリゲート艦から禍々しい 赤い閃光が瞬いたかと思うと、カルカソンヌにカイザードビシではない新手の怪獣が三体、 どこからともなく出現した! 「キイイィィッ!」 「キ――――――――!」 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 深海魚に四足が生えたような怪獣と、骨の翼を生やしたカマキリ型の怪獣。そしてこの二者の 特徴を腹部と背面に持った、最も巨躯の大怪獣。かつて破壊衝動に取り憑かれた悪童たちが想像し、 願望実現機の力で創造してしまった凶悪な怪獣たち、スキューラとバジリス、そしてキングオブモンスである! 「何!? 新手かッ!」 目を見張る才人たち。新たに出現した怪獣三体は、早速カルカソンヌの人間たちに対して 猛威を振るい出す。 「キイイィィッ!」 「キ――――――――!」 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 スキューラが突進して立ち並ぶ建物を薙ぎ倒し、バジリスが光球を吐いて街の一部を破壊。 そしてキングオブモンスが地面をなぞるようにクレメイトビームを吐き、これが当たったものを 等しく粉砕していく。 「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――!」 怪獣たちの猛攻に、全滅の危機に瀕する人間たち。しかしミラーナイトたちはカイザードビシに 足止めされているので、彼らを救うことは出来ない。 「くッ……! 好き勝手な真似しやがって……!」 『才人! ここは俺が行くぜ!』 奥歯を噛み締める才人にゼロがそう申し出た。 『お前はジョゼフの方を倒してくれ! なるべく早くな!』 「分かった! 頼んだぜ、ゼロ!」 『そっちもな!』 才人の腕からウルティメイトブレスレットが光となって離れ、光から変じたウルトラマンゼロが キングオブモンスの軍団に飛び掛かっていく! 「セェェェアッ!」 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 燃え盛るウルトラゼロキックが引き起こした爆炎が、三体の怪獣を纏めて吹っ飛ばした。 しかしキングオブモンスたちはすぐに身を起こし、狙いをゼロへと移す。 「ヴォオオオオオオオオオオ!」 「キイイィィッ!」 「キ――――――――!」 キングオブモンスはスキューラとバジリスを引き連れてゼロに襲い掛かっていく。対する ゼロもゼロスラッガーを両手に握り、怪獣たちの間に飛び込んで同時に三体の相手を開始した。 フリゲート艦の甲板では、ジョゼフが赤い球を手の平の上にして、ガーゴイルに抑えつけ られているアンリエッタを相手に自慢するように語っていた。 「素晴らしいものだろう、この赤い球の能力は。これはどんなものであろうと、望むものを 自由に出してくれるのだ――残念ながら、死人はよみがえらなかったがな――。死神が与えて くれた摩訶不思議なアイテムでな、これでおれは怪獣の軍団を次々と呼び出して利用していた、 という訳なのだよ」 しかしアンリエッタは、内容が半分ほども耳に入っていなかった。天と地に広がる、 シティオブサウスゴータの惨劇を再現しているかのような怪獣地獄を眼下にして、唇を わななかせながらジョゼフに問いかける。 「あなたは、同じ人間の命をこうも簡単に蹂躙しようとして……心が痛まないのですか?」 ジョゼフは呆気なく答えた。 「それが困ったことに、父に買ってもらったおもちゃのフネを池で失くした時の方が、よほど 心が痛んだわ。そうそう、シャルルと何度競争させたか知らんが、ついぞおれは一度も勝てなかったな」 人命をおもちゃに喩える。その心理は、アンリエッタの理解の範疇をはるかに超えていた。 そしてそれを語るジョゼフの空虚な表情と瞳に、絶望を通り越して哀しさすら覚えた。 一方で虚空では、姿を隠している死神がジョゼフを見下ろしながらほくそ笑んでいた。 『あの赤い球を使いこなし、なおかつ正気を保っているとは、やはり見込み通りの男だ。 奴を上手く利用すれば、我々の望みを達成することも容易い……!』 死神はジョゼフを正気と形容したが、果たしてどこまでも虚ろな眼をした男が、正気と 呼べるのか否か……。 と、その時である。フリゲート艦の上空を、防護のガーゴイルの軍団を突っ切って 飛んできたシルフィードが横切り、そこから才人が甲板へと躍り出たのである! 「おおおおおおッ!」 才人は甲板へ飛び移りながらディバイドランチャーを乱射し、アンリエッタを囲むガーゴイルを 撃ち砕いた。助け出されたアンリエッタはすぐに着地した才人の後ろに回って、ジョゼフたちから 距離を取る。 「姫さま、大丈夫ですか!?」 「わたくしのことは構わずに、早くあの男を止めて下さい!」 ルイズたちは応援のロマリアのペガサス騎兵とともに、空中のガーゴイルたちを相手取って 才人の頭上を守っている。今ジョゼフを討ち取れるのは才人だけだが、ジョゼフはまだ数多くいる ガーゴイルによって守られている。 しかし才人は数の差などにひるみはしない。 「了解しました!」 ディバイドランチャーからデルフリンガーに持ち替えた才人に対し、ミョズニトニルンは 甲板のガーゴイルを全て向かわせる。 「行け! 奴を仕留めろッ!」 だが才人の剣さばきの速度はガーゴイルをはるかに上回り、瞬く間にガーゴイルを両断して 全滅させた。 「お前の武器はなくなったみたいだな」 これ以上ジョゼフの援護をされないようにと、ミョズニトニルンから倒そうとする才人。 だがしかし、 「なッ!」 才人は今しがた切り裂いたガーゴイルたちが、粘土細工のように切断面がくっついて 立ち上がっていく光景を目の当たりにする。 ミョズニトニルンが勝ち誇るように告げた。 「このガーゴイルはただのガーゴイルじゃない。水の力に特化させたんだよ。どれだけ切り 裂こうが砕こうが、無駄というもんさ」 いくら破壊しても復活してしまうのなら、ディバイドランチャーも弾の無駄である。才人は デルフリンガーを盾に、ガーゴイルの攻撃を耐えるしかなくなる。 「くッ……!」 「どうした! それがガンダールヴの限界か!?」 と叫ぶミョズニトニルンの語気には、才人に対する憎悪と嫉妬の色が織り交ぜられていた。 彼女は、固い絆で結ばれている才人とルイズの関係を強く妬んでいた。自分とジョゼフの 間には、奇怪な死神などという邪魔者がいて、ジョゼフはより強い力をくれるそちらの方に 構ってばかり。そうでなくとも……ジョゼフは自分のことを……。 「武器を扱う程度した能のないお前如きがジョゼフさまに楯突こうなど片腹痛い! ここで 無様な姿を晒せぇッ!」 絶叫しながらガーゴイルを操るミョズニトニルンだったが――その瞬間、軽やかな銃声と ともに腕に痛みが走った。 才人が隠し持っていた、ウルトラ警備隊の麻酔銃であるパラライザーで撃ったのだ。防戦に なっていたのは、ミョズニトニルンの油断を誘うのが目的だったのだ。 「お生憎さま。こっちの世界の武器には、こんなものもあるのさ」 「うッ……」 たちまちミョズニトニルンの身体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。それと連動して、 ガーゴイルたちが倒れていく。ミョズニトニルンの操作がなければ動かないようだ。 ミョズニトニルンを無力化した才人は、今度こそジョゼフと相対する。 「やあ。ガンダールヴ」 「あんたがジョゼフか。怪獣どもを止めてもらうぞ」 今まで散々苦しめられながら、実際に顔を拝むのは初めてとなる、ガリアの黒幕。タバサと 同じ髪の色であり、容貌も芸術品のような美丈夫であるが、その顔つきは底が見えないほどの 空虚さに支配された男を、遂に才人は前にした。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9234.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第七十話「アルビオン氷河期」 隕石小珍獣ミーニン 冷凍怪獣マーゴドン 凍結怪獣ガンダー 宇宙海獣レイキュバス 冷凍怪獣シーグラ 登場 「……はい。こちらもひどい吹雪でございます、陛下」 ウエストウッド村からそう離れていない地点。ガンダーとマーゴドンの二大冷凍怪獣の引き起こす 猛吹雪によって大地は雪に埋まり、元がどんな地形だったのかは皆目見当がつかない。 その雪原の上に、ローブで全身を包んだ女が雪と風に煽られながらたたずんでいた。かつてアルビオンに 潜入していた謎の女、シェフィールドである。 彼女は傍目から見たら、独り言を唱えているように見える。だが実際は違う。テレパシーとも 言うべき能力によって、ある人物と連絡を取り合っているのだ。 「ガーゴイルを用いたとしても、前に進むだけでも困難な状態です。真に申し訳ありませんが、 仰せつかった“始祖の祈祷書”の回収の任、開始できそうにありません……」 本当に心底罪悪感を抱えている様子で、シェフィールドは謝罪した。 彼女はルイズの持つ“始祖の祈祷書”を強奪する目的で再びアルビオンに現れたのだ。 しかし、行動に出ようと考えていた今日この日に、折悪しく怪獣による異常気象が発生した。 そのためにルイズを見失い、任務遂行が不可能な状態に陥ったのだった。 シェフィールドの脳内に、連絡相手の声が響く。 『それは真に残念であるな。しかし、そんな巡り合わせの悪い日もある。よい、我がミューズよ。 祈祷書の奪取は打ち切り、我が元へ帰ってくるのだ』 「い、いえ。この吹雪がやんでから、改めて虚無の担い手を捜索することは出来ます。陛下がひと言 お命じ下されば、このわたくしめが、必ずや成し遂げてご覧にいれます」 『いや、余の気分が変わったのだ。単に“秘宝”と“指輪”を集めて眺めるより、“虚無”対“虚無”の 対局を指すことにした。その方が面白そうだ。故に必要はない。それに何より……そんな寒い場所に長々と 立たせて、お前が風邪を引いたりしたら心苦しい』 相手の最後の方の言葉を聞いて、シェフィールドは顔を輝かせた。容貌に似つかわしくない、 恋をする少女の顔だった。 「あ、ありがたきお言葉です! ではすぐにあなたさまの御許に馳せ参じます……ジョゼフさま!」 シェフィールドは懐から小さな人形を取り出し、それを足元に放った。 人形は一瞬にして羽を生やした大型の魔法人形ガーゴイルに変化し、シェフィールドは その背にまたがった。シェフィールドを乗せたガーゴイルは飛び上がり、風に逆らいこの場から 飛び去っていった。 知らず知らずの内にシェフィールドに狙われていたルイズであったが、彼女は現在、行方不明の 才人を捜す旅を行っていた。自責の念から一度は自殺も考えたが、ゼロたちとの生活の中で命の 大切さを知った彼女は、自らの命を絶やすその行為が大罪であることを悟り、前を向いて生きることを 遂に発起したのだ。 そう、まだ確実に死んだとは言い切れない才人の行方を捜し出すことを決めたのだ。そのために、 自分を心配してわざわざ様子を見に来たシエスタをお供にして、馬車の旅に出た。 が、しかし、ウエストウッド村に近づいたところで、怪獣たちの猛吹雪に襲われてしまった。 馬は凍死してしまい、ルイズとシエスタは雪の真っ只中に立ち往生するという最悪の状況に 見舞われているのだった。 「うぅ、さ、寒いわ……」 ガチガチと歯を鳴らすルイズ。ありったけの防寒具を着込んでいるが、それが役に立たないほど 気温が低下しているのだ。 顔が青ざめるルイズを、シエスタが励ます。 「ミス・ヴァリエール、しっかりして下さい! 眠ってはいけません。雪の中で眠ったら 命はありません!」 「う、うん……。シエスタ、あなた体力あるのね……」 「田舎育ちですから。このぐらい、なんてことありませんわ」 と言うシエスタだが、実際にはこれは強がりであった。本当は彼女も苦しい。しかしルイズを 激励するために、平気なように振る舞っているのだった。 「この幌馬車、雪の中に埋まりかけてます。このままでは生き埋めですわ。まずは脱出しましょう」 「ええ……」 荷物を持っていく余力はない。二人は着の身着のままで馬車から外へと抜け出した。その直後に、 馬車は幌に積もった雪の重みで押し潰された。 「危ないところでしたね。でも、ここからどうすればいいか……」 さすがに困惑するシエスタ。自分たちの発った町から、もう大分距離があるところに来ているので、 そこに引き返すというのは難しすぎる。この吹雪の中では、方向が分からなくなって遭難することも 十分にあり得る。 一方でルイズは、自分たちの目の前にある森の入り口を見やった。ウエストウッドの森だ。 「確か、この森の中に村が一つあるって話を町で聞かなかったかしら?」 「え? ええ……何でも、身寄りを亡くした子供たちが寄り集まって暮らしてる小さな村があるとかないとか。 でも、人の行き来が滅多になくてほとんど忘れられたところみたいですが……」 「そういう場所にいるんだったら、今の今まで行方不明のままでもおかしくないわね。いえ、それより 今は人のいる場所へ行きましょう。このままじゃ、二人とも凍え死んでしまうわ」 「そうですね……。本当に村があることに賭けましょう!」 ルイズとシエスタは、自分たちが生き残るために森の中へと歩を進めた。 「ガオオオオオオオオ!」 「プップロオオオオオオ!」 マーゴドンとガンダー、二体の怪獣の姿が、才人たちの目にしっかりと飛び込んだ。吹雪の中で 暴風のうなりにも負けないほどの咆哮を上げる怪獣たちの様子は、まるでこちらを挑発しているかのようだった。 怪獣たちの威容を目の当たりにして、子供たちはミーニンやティファニアにしがみついて 大いに震え上がる。ティファニアは彼らを落ち着かせるのに必死だ。 「あいつらの仕業だったんだな……!」 一方で、グレンと才人はガンダーたちを強くにらみつける。この吹雪は自然の天候ではない。 奴らをどうにかしない限りは、自分たちはもちろん、ハルケギニア中の人々が助からないだろう。 しかも、ガンダーはこちらに歩み寄ってきているようであった。ウエストウッド村を踏み潰すつもりか! 「このまんまじゃやべぇぜ! 俺が怪獣を遠ざける!」 そう叫んで家から飛び出していこうとするグレンに、ティファニアが驚愕した。 「そ、そんなの危険すぎます! こんな猛吹雪の中、無謀ですよ!」 事情を知らない者から見れば、グレンの行動はそう見えるだろう。しかし彼の本当の姿は、 熱く燃えたぎる炎の戦士なのだ! 「任せてくれって! みんなはどうにか自分たちの身を守っててくれよ!」 「グレン! 俺も……!」 才人が名乗り出ようとしたが、グレンに手で制された。 「お前はここの嬢ちゃんと子供たちを守ってやってくれ」 でも、と言いかけた才人だが、続きを口に出せなかった。ウルトラマンゼロになれない 今の自分に、巨大怪獣と戦える訳がない。 戸惑っている間に、グレンは素早く玄関から飛び出ていった。 雪原に飛び出すと、グレンは早速変身を行う! 「うおおおぉぉぉぉぉッ! ファイヤァァァァァ―――――――ッ!」 燃え盛る炎の勢いで一気に巨大化し、グレンファイヤーへと変貌した! 赤き戦士が 立ちはだかったことで、ガンダーは足を止めて警戒する。 『とぁッ!』 『むんッ! ジャンファイト!』 更にはミラーナイト、ジャンボットも駆けつけ、グレンファイヤーの左右に並び立った。 『お前たちも来たのか!』 『この一大事、何もしない訳にはいきませんよ』 『今変身の出来ないサイトたちには、指一本とて手出しはさせん!』 頼れる二人の仲間の登場でグレンファイヤーの心はますます燃え上がった。 『こんな寒々しい景色、ぶっ飛ばしてやるぜ! ファイヤァァァ―――――――!』 手の平から火炎放射を飛ばすグレンファイヤー。吹雪と極低温にも負けない灼熱の炎は、 ガンダーをひるませマーゴドンをたじろがせる。 『よぉし、行くぜぇぇぇぇぇぇッ!』 敵をひるませたことで、グレンファイヤーは一気に畳みかけようと駆け出した! 雪原を踏み越え、 ガンダーに猛ラッシュを食らわせようと迫る。 だが途中で、足下の雪から赤い巨大なハサミが飛び出してきた! 『うおわぁぁぁぁッ!?』 『グレン!?』 『グレンファイヤー!』 足をはさまれて前のめりに倒れるグレンファイヤー。ミラーナイトとジャンボットは動揺する。 「グイイイイイイイイ!」 雪の中からハサミがせり出してくる。その正体は、左右で大きさの不揃いなハサミを生やした、 角ばった甲羅を持つカニとエビを足したような甲殻類型怪獣……! かつてウルトラマンダイナをギリギリまで追い詰めた恐るべき宇宙海獣、レイキュバスだ! 『くっ、こんな奴までいやがったのか!』 グレンファイヤーは足を掴むハサミを振り払うが、起き上がったところにレイキュバスが 冷凍ガスを浴びせてくる。 『ぐわあああぁぁぁぁッ!』 その攻撃に悶え苦しむグレンファイヤー。レイキュバスの冷凍ガスはウルトラ戦士の巨体も 一瞬で凍りつかせるほどの恐ろしい威力がある。たとえ炎の戦士のグレンファイヤーといえども、 ただでは済まない! 『グレンファイヤーが危ない!』 ミラーナイトが援護攻撃をしようとしたが、そこに吹雪の間から飛び出してきた、上顎から 太い牙を剥き出しにした恐竜型怪獣が襲いかかってきた。 「ギャァァァアアア!」 『むッ! はぁッ!』 反射的に喉にチョップを叩き込んで返り討ちにするミラーナイト。だが恐竜型怪獣はミラーナイトの 周囲から更に三体も現れ、口から冷凍ガスを吐き出して攻撃してくる! 「ギャァァァアアア!」 『なッ! こんなに怪獣が……うあぁぁッ!』 三方向からの攻撃にどうにも出来ずに、ミラーナイトの身体が凍りついていく。 この怪獣たちの名はシーグラ! シーグラもまた冷凍怪獣である! 『グレンファイヤー! ミラーナイト! 今助け……!』 「プップロオオオオオオ!」 劣勢に立たされる二人を救援しようとするジャンボットにも、ガンダーが襲いかかる。 宙を滑空しながらドリル状の爪でジャンボットの肩を切り裂く! 『ぐわッ! くぅッ、思うように動けん……!』 ジャンボットたちの劣勢は、数の差だけが理由ではない。極低温の猛吹雪の中という、 相手に圧倒的有利な環境でその力を十全に発揮することが出来ないからだ。 『まずは吹雪をどうにかしなければ……!』 ジャンボットは高性能センサーを働かせて、事態打開のためのデータを収集した。 その結果、吹雪の中心がマーゴドンであることが判明。マーゴドンを叩けば、状況は好転するに違いない! 『よし! ジャンミサイル発射ッ!』 そうと分かったジャンボットの行動は早かった。ミサイルを一斉に飛ばし、マーゴドンへと炸裂させる! その爆発と熱でマーゴドンにダメージを与えるはず……。 「ガオオオオオオオオ!」 しかしミサイルの爆発はマーゴドンの身体に吸い込まれていき、火花は瞬く間に消え去ってしまった! 『な、何だと!?』 マーゴドンの冷凍能力は数々の怪獣の中でも頂点に君臨するレベル。あらゆるエネルギーは 絶対零度の肉体に吸収され、ゼロにされてしまうのだ! マーゴドンに爆撃は効かない! 『くッ、どうすれば……ぐわぁぁぁッ!』 「プップロオオオオオオ!」 ジャンボットが逆転の一手を考えつく前に、ガンダーが冷凍ブレスを食らわせた上に張り倒した。 横転したジャンボットは回路が凍りついて、立てなくなってしまった! ゼロのいないウルティメイトフォースゼロは、冷凍怪獣軍団の前に絶体絶命の窮地に追いやられた! 「み、みんなが危ない……!」 三人のピンチを、才人も目の当たりにしていた。焦燥を覚える才人だが、彼らを助ける方法は 何も思い浮かばない。何せ、頼みの綱のゼロは未だに覚醒していないのだ。 (くそぉッ……! どんなに訓練したって、人間の身じゃいざという時に何の役にも立たない……! やっぱり、俺に出来ることなんて何もないのか……!?) 激しい無力感に打ちのめされ、目の前が真っ暗になりそうな才人。 だが、ふと倒れているジャンボットの姿が目に入る。 その時、才人に電流が走った! (そ、そうだ! これが上手く行けば……!) 才人の脳内に、逆転の手段が浮かび上がったのだ! しかしそれを実行するのには、大変な危険がある。果たして自分に、その危険を突破する 力があるのか……。ほとんど無謀な行為なのだ……。 悩んでいたら、後ろの子供たちとティファニアの声が耳に入った。 「テファお姉ちゃん……眠い……」 「ね、寝ちゃ駄目よ! 気をしっかり持って! お願いだからッ!」 子供たちの体力は限界のようだ。 それを知った時、才人は決心した! (力があるのかとか、危険がどうとか、そんなことじゃない! あの子たちの命が消えかかってる! それを救わなくちゃいけない! そうしなきゃ、俺は本当に駄目な人間になる!) 瞳に光を灯し、デルフリンガーを背負ってマントを勢いよく羽織った! (俺は男だ! 人間だ! どんな敵が立ちはだかろうと――勇気を胸に、立ち向かってみせるッ!) 玄関の扉に手をかける才人に、ティファニアが慌てて呼びかけた。 「サイト、何をするの!?」 「行ってくる。今みんなを救うことが出来るのは、俺しかいないんだ」 「む、無理よ! 死にに行くようなものだわ! お願い、やめて!」 必死に制止するティファニア。だが才人の心は、もう変わらないのだ。 「無理なことなんてない! 俺は、諦めない! 不可能を可能にするッ!」 そして一気呵成に吹雪の中へ飛び出していった! 「サイトぉぉぉぉぉ―――――――――――!」 ティファニアの絶叫を背にして、才人は吹雪に逆らい駆けていく。暴風は彼を枝きれのように 吹き飛ばそうと襲い来るが、才人の身体は前へ前へと進んでいく。 (こんな逆風の中で、身体が動く……! グレンに鍛えてもらったからだ! グレン、ありがとう!) 己の肉体が逆風に負けないことを、グレンファイヤーの課した特訓の成果だと才人は考えた。 しかしそれだけが理由ではない。 今の才人の心の中に、雪と氷に負けない熱い勇気と使命感が燃えているからだ! 「くッ……けれど、さすがに目を開けてるのは難しいな……!」 足は動いても、目に雪が入ってくるのは防ぎ難い。才人が視界の確保に苦しんでいると、 背にしているデルフリンガーが呼びかけた。 「相棒、俺がジャンボットまでの方角を指示してやらあ。俺には目ン玉がないからな、雪は関係ねえのよ」 「そうか! ありがとう、デルフ!」 「こんくらいのこと、礼を言われるまでもねえぜ」 デルフリンガーのお陰で、方向を見失うことはない。才人は感謝するとともに、デルフリンガーが 一緒にいてくれることでもっと勇気をたぎらせた。 (俺は一人じゃない……! 一人じゃないなら、何だってやれる気分だ!) だが、雪中を突き進む才人にガンダーが容赦なく襲いかかってきた! 「プップロオオオオオオ!」 「相棒危ねえ! 伏せろッ!」 デルフリンガーの指示でその場に身をかがめる才人。ガンダーがその上スレスレを通り過ぎていく。 『サイト!?』 『くそッ、あの野郎サイトを……!』 ミラーナイトとグレンファイヤーは、才人が外に出ていることに驚き、彼を狙うガンダーをにらみつけた。 しかしレイキュバス、シーグラの猛攻をしのぐのに手いっぱいで、彼を助けに行くことは出来ない。 「プップロオオオオオオ!」 着地したガンダーはなおも才人をつけ狙う。 巨大怪獣に狙われ、追われる恐怖。それは生身の人間には耐えられないほどの、大きすぎる恐怖だ。 心臓が張り裂けてもおかしくないような。 しかし才人は立ち止まらない! 「相棒、走り続けろ! ジャンボットのとこまでたどりつけりゃあ勝ちだ!」 「言われるまでもないぜ!」 才人の勇気は、巨大な恐怖を打ち払うほどに強くなっているのだ! そして才人は走る。執拗に追ってくるガンダーが振り下ろす爪を、吐き出す冷凍ブレスをギリギリの ところでかわし続けながら。一歩間違ったら即あの世行きの、あまりにも危ない橋。その上を駆け抜けていく。 苦しくない訳がない。無理のある回避行動を取りながら前に進むので、脚はパンパン、筋繊維は悲鳴を上げる。 心臓は物理的に破れそうだ。だがその苦しみを、腹にくくった思い一つで抑えつける。 「負けるか……! 人間はッ! お前たちなんかに負けなぁぁぁぁいッ!」 そうして気がついた時には――横たわったジャンボットの顔が目前にあった! 才人は即座にジャンボットに呼びかける。 「ジャンボット! 意識はあるか!?」 『サ、サイトか……!? よくここまで……』 「俺をお前のコックピットに入れてくれ! その力を……俺に貸してくれッ!」 才人の言葉が届き、ジャンボットになけなしの力が宿った。 『力を借りるのは、私の方だッ!』 転送光線が才人を包み、次の瞬間には才人の身体はジャンボットのコックピット内にあった。 「プップロオオオオオオ!」 ガンダーは才人を内部に収めたジャンボットへ詰め寄り、鋭い爪を振り上げる。このままでは、 ジャンボットはズタズタに引き裂かれておしまいだ! しかしその直前、コックピットの中央に立った才人がファイティングポーズを取り、力いっぱいに叫んだ! 「ジャァァァンッ! ファァァァァァァァァイトッ!!」 ガンダーの爪が振り下ろされる! ……その顔面に、ジャンボットの鉄拳がめり込んだ! 「プップロオオオオオオ!」 仰向けに傾き、雪の上に倒れ込むガンダー。それとは反対に、鋼鉄のボディと『心』を持った武人は身を起こした! 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』 システム再起動。回路は瞬時に正常に戻り、黄色い眼に光が灯る! 「行こう、ジャンボット! みんなを救いにッ!!」 冷凍怪獣にも消すことの出来ない勇気の炎を内にしたジャンボットが、雄々しき機体を立ち上がらせたのだ! 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔